15.

9日目。


「齋藤光希…と」
よし。書き終えた。
あ、そうだ。
俺のホルン、置いてたら勿体ないし、
折角だから松澤さんに預かっといて貰おうかな。
「P.S.
もし……」
がちゃっ
「よーっす」
「おっす山脇」
ドアが開いて、山脇がいつものように遠慮なく部屋に入ってくる。
「よし、終わった」
俺はさっきまで書いていたそれを封筒に入れると、軽く封をした。
「これ。またいつか渡しといてくれるか?」
俺が山脇に差し出したそれを見て、山脇は少し怪訝そうな顔をする。
「…何それ。」
「見たらわかるだろ?手紙だよ手紙。」
俺がそう言った途端、山脇は笑い出す。
「何が可笑しいんだよ…」
いや、何が言いたいかはわかるような気もするけどさ。うん。
なんかな。こいつの笑い方、なーんかムカつくんだよな、うん。
「だって、手紙とか、そんな乙女なこと、お前がする、なんて、思わなくてっ…!
もーお前のせいだぞっ笑いが止まんねっふははは…」
いまだに笑いが止まらないのか途切れ途切れに言葉を発する山脇の頭を小突いて、
「じゃ、渡しといてな。」
そう言って手紙を押し付ける。
「…いつ、渡せばいい?」
「…そう、だな……」
少し考えてから。
「…いつでもいい。
……俺が…死んだ、後なら。」
「……………。」
山脇は何も言わずうつむいた。

俺のその一言で空気が暗くなってしまった。
やってしまった、と正直思う。
これまでの自分なら、空気を明るく変えていたのに。
今ではその方法すらわからないなんて。
「……ごめん、そんなこと言って。」
謝ったとしても、何が変わる訳でもないけれど。
それ以外に何をすべきなのかが俺にはわからない。

「俺、信じてるから。」
俺の顔を見ることもなく、そう言う山脇。
「松澤さんと同じようなこと言ってるって分かってる。
けど、俺は信じてるから。」
「……何を」

顔を上げて、俺と目を合わせた山脇は、目に涙を溜めていた。
「こんなに元気な奴が死ぬわけないって事と、」
さっき俺が押し付けた手紙を目の前につきつける。
「こんな物、松澤さんに渡す日が永遠に来ない事をな!」

そうか。

怪我した俺を初めて見舞いに来た時も
俺が真実を話した時も
山脇は何も言わなかった。
ただ、いつも通り、軽口叩いたり
何も言わず、信じてくれたり。

その動作があまりにも「いつも通り」過ぎて
てっきり心配されてないものと思っていた。
自分はこいつにとって、事故に遭っても、
死んでしまうとしても、
こいつにとって関係の無いことなんだと
勝手に思い込んでいた。

けど、それは違った。

本当は、きっと誰よりもずっと心配しててくれたんだ。
小学校の頃からずっと、仲良くしてきた友達。
ずっと一緒にいた親友。
心配しない訳はないんだ。

離れたいなんて、思ってないんだ。

でなきゃ、毎日ここに来ることはないはずだ。

けど、感情を露にすると
心配してることは伝わるけれど
心も空気も暗くなる。

そうじゃなくて
俺に「いつも通り」であってほしいから
こいつは自分の感情を隠してまで
「いつも通り」を演じてきた。

…そうなんだろ?山脇。

「俺とまた、デュエットして遊ぶんだろ!?
死ぬんだったら早く死んでまた帰ってこい!!
…待っててやるからさ。」
俺はそっと山脇の肩に手を置く。
「泣くなよ、山脇。」
「…泣いてない。
…というかさ。」

山脇は俺からすすっ…と離れると、

「BL臭いから、止めろ。
お前、まさかそっち系なわけ?引くわー」
いつもの調子を取り戻した山脇に笑みを向けると、
「やっぱりそーや
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