14.

「もう8日目だな。」
「あ、そうなんだ。」
「そうなんだって…お前なぁ…」

ベッドに腰掛けて、山脇と喋る。
これが、最近の日常になりつつある。

毎日のように見舞いに来る山脇と松澤さん。
よく飽きないなって、正直思う。

まぁ山脇はかなり仲良くしてたし、頻繁に来るのも分かるかって言われたら分かるけど…

うん。
俺だったら、先輩を見舞いに毎日病院に通おうとは思わないんだよな、うん。
松澤さんがここに来るのは、義務感に駆られてなのか、
現場を見てしまった責任感…みたいなものなのか…
まぁ俺にはよくわからんけど。

暇が潰せて助かる、っていうのは正直なところかな。

まぁそんな悠長な事言ってられるのも、今のうちだけだけどな…

さっきまで忘れていたけれど、入院し始めてからもう8日も経ってる。

あと2日。
あと2日で、もうここから消えることになるのか。

未練…かぁ。
ないかって言われれば素直に頷ける訳ではないけれど、
我ながら充実した14年間を過ごせたと思ってる。
確かにもっとこの世界にいたかったけれど、
仕方ないといえば仕方ない。

「なんか…早いな。」
「そうだな。」
10日間というのは、聞かされた時には長いと感じたけれど、
ほとんど過ぎてから考えると、意外と短かった。
「齋藤が言ってたこと、本当だとすると、あと2日間しか無いのか。
…何か、やりたいこと、みたいなの、あったりする?」
やりたいこと、ねぇ。
「こっから出たい。」
「それは無理。」
「だよなぁ…」
苦笑いする。
正直、こっから一時間だけでも出たい。
病院独特のこの消毒液やらなんやらが混じりあった臭いは、俺の苦手とするもののうちのひとつ。
8日経った今も、この臭いが嫌で嫌で……

「あ、そうそう。最近、松澤さん大分元気になってきたな。」
「そうなのか?」
「うん。うちの1年が、何かあったかって聞いたら、齋藤、なんて答えたと思う?」
「わかんねぇ」

「『信じてるから』って。
1年にはさっぱり意味がわからんかったみたいだけど、
俺からしたら可哀想としか思えない」

信じてる。
『約束してください。
絶対に、部活に復帰して、また一緒にホルンを吹きましょう?』
『…あぁ、必ず。楽しみにしてるよ。』
『その言葉…信じてますよ?』

昨日の会話が思い出される。

守れもしない約束をしてしまった。
その影響で松澤さんは元気になった。

信じてくれた。
普通なら嬉しいことのはずなのに、
なぜか胸が締め付けられるように痛んだ。

それは、きっと罪悪感からきたものなんだろう。
14/07/04 00:06更新 / 美鈴*
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