連載小説
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「お話」19.
「再び、過去へ戻る。

横断歩道の上、ちょうど真ん中
最初の時のように先輩を呼び止め話をする。

ちゃんと立つ位置も考えて。
準備は万全だった。

『松崎さん、今日歩き??』
『はい。』

『…どうした?なんか元気ないな。』
…見抜かれてしまった。
まぁそりゃいくら人生にもう望みがないと知っていても、
これから死ぬと分かってて笑顔でいられる訳はない。
『…眠いだけですよ。』
『そうか。』
案外あっさり納得してくれた。

『ところで、時間大丈夫か?』
要らない心配をしてくる先輩。
大丈夫ですよ。時間なんて。
だって。

『私は、もうすぐ死ぬから…。』
『え?』

遠くから聞こえてくる車のエンジンの音。
きっとそれはもうすぐ私から命を奪う紅い車。

『ちょっ…待ってよ松崎さんどうしたの?
何でも相談に乗る。
だから、もうすぐ死ぬなんて言わないで…。』
私を本気で心配してくれる先輩。
ごめんなさい。
これから、幸せになってくださいね…。

『いじめとか受けてるんだったら俺がなんとかする!
悩みがあるんだったら何でも相談に乗る!
だから…松崎さん!』
その必死そうな顔。
今まで見たこと無かったよ。
すごく…かっこいい…。
けど…

『もうすぐですね…』
車の音が近付いてくる。
あと5秒程でここに来るかな?
『何がっ……!』
先輩…泣いてる?

『…っどうして道路の真ん中でつっ立ってるんだよ!早く歩道に来いよ!
もし車が来たら…!』
必死に私を説得しようとする先輩…。
私の気持ちは揺らぎそうになるけれど…

…ごめんなさい……。
最後まで迷惑かけて…
本当に…
『ごめんなさい……。』
紅い車が道を曲がったのを見てから、
私は渾身の力を込めて先輩を突き飛ばした。
自転車にまたがったままだった先輩は、あっけなく横に倒れた。
『松崎さんっ何して…。………!』

あと一瞬で。
『松崎さん……!』
私の命は終わる。

横から感じる強い衝撃で、私は結構吹っ飛んだ。
横向きに何回転かしてから、地面に叩きつけられる。
ほとばしる激痛。
そして……

『松崎さんっ!!!!』
最期に聞こえたのは、先輩の悲痛な叫び声………。」
14/06/30 22:06更新 / 美鈴*
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