連載小説
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「お話」序章
「これはね、とある女の子と男の子のお話なの。」
一呼吸おいて、飼い主さんは話しだした。

「もし…貴方が過去に戻って、
自分の人生をやり直すことができたなら。
失ったものを取り戻すことができるかもしれないとしたら。

貴方は…どうしますか…?



とある日の、朝のこと。

『えぇ!?もうこんな時間!?』

私、松崎由紀は、珍しく寝坊した。

私が起きたのは、いつもならもう学校に着いている時間、学校が始まる20分程前。

どうしよう!
学校まで自転車で15分かかるのに…!
これ間に合うかな!?間に合わないよね!?
遅刻だけは絶対にしない、それを中学生活においての目標にしていた私はとても焦った。

朝ごはんを食べてる時間なんてない。
着替えて、歯を磨いて、顔を洗って……
私はこれまでにない速さで身支度を済ませた。
『行ってきます!』
焦っていた私は、後ろを振り返ったり、忘れ物がないか確認したりすることもなく、慌てて家を出た。

エレベーターを降りてから、何かを忘れたことに気がついた。
『あ!自転車の鍵!!』
慌ててエレベーターを呼ぶも、もう既に上に上がった後で…

待ってる暇なんてないっ!!
駐輪場にある私の自転車の籠に自分の鞄を入れて、非常階段のドアを開け、6階まで駆け上がる。

『あぁ…無理ぃ…はぁ…はぁ…』
運動部でもなく、また、貧血で運動するなと医者に止められている私には、階段を駆け上がるのは少々過酷過ぎたようで、3階に着いた頃には私はもうヘトヘト…正直これでも頑張った方だったと思う。
もう足が動かないので仕方なくエレベーターを呼んで、6階まで昇る。

鍵を呆れ顔の親から受け取り、再びエレベーターの中。

なんで?
なんで、今日に限って、こんな手間取ってるの…?エレベーターの中で、私は首をかしげた。
……まぁたまにはそういう日もあるよね…。そう諦めた私の目の前で、ドアが開いた。


駐輪場に着くと、私は急いで鍵を差し自転車を出した。
隣の自転車が倒れたけれど、気にしてる暇なんてあるわけないでしょ!?
道路に出て自転車をひたすらこいでこいで…スピードを出しすぎて、信号を無視しそうになって。あげくの果てには車にひかれるところだった。盛大にクラクションを鳴らされただけで終わったからよかったけど……。


結局信号に足止めされた。
時間なんて全然ないのに。
待ち時間の長い信号はなかなか青にならない。仕方なく自転車を止めて、止めていた息をふぅ、と吐いた。

なんとなく見上げた空は、雲ひとつなく、驚くほどに青かった。

『ん……?事故かな…?』
なかなか変わらない信号にイライラしながら待っていると、遠くの方で、ドンっ!と何かがぶつかる音が聞こえた。

その時の私は気にも留めなかった。
遅刻しないか心配で、すごく焦ってて、
そんなこと考えてる暇もなかった…。


信号がやっと青になって。
私が自転車を走らせようとしたその時。

紅い車が、向こう側からこっちに向かって信号を無視して走ってきた!
何あれ!?法律違反じゃないの!?ったく危ないなっ!!
とりあえず自転車に急ブレーキをかけて、車とぶつかるのを避けた。
…って…あれ…?
その車に、私は少し違和感を覚えた。車の前の方…なんだか少し、色が違う。
そう、まるで紅い液体、例えば血とかをかけたような…
しっとりと、濡れてる…?

車は驚く私の横を通り過ぎた。
その時、どこかで嗅いだことのある錆びた鉄のような臭いが私の鼻を刺激した。

これは……!
『…血の……香り……!?』

もしかして…さっきの音……!
私は急いで振り返って、ナンバープレートを確認する。

猛スピードで走り去っていく車。
私にはどうすることもできない。

ナンバーを覚えたし、もういいや。
事故現場に行ってしまったらその時はその時。
そう思って、私は急いで自転車を走らせた。

そんな私を嘲笑うかのように
空はとても青く、澄みきっていた。


あ…道間違えた…。
いつも通っている道は同じホルンパートの齋藤先輩の家の前を通る道で、少し遠回り。
今日は遅刻しそうだしもっと短い道を選ぼうと思ったのに。
いつもの癖かな?いつもの道を選んじゃった…

けれど、この道を選んだのは、別な理由もある気がする…
この先に、何かがある気がした。

向かい風が吹いてくると、
僅かに感じる血の臭い。

何かに引っ張られるような気がして。
ただの勘だけれど、私はこの道を通らなくちゃいけないんだって、そう思った。」
15/08/13 01:13更新 / 美鈴*
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■作者メッセージ
加筆修正したらやたらと長くなった。

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