連載小説
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「お話」2.
「昨日のお話の続きが聞きたいの……?」
飼い主さんは、いつもの落ち着いた声で、ぼくに問いかけた。

もちろん、聞きたいよ。
今度こそは、わかるかもしれないから。
不思議な夢の、謎が……
ぼくは、頷いた。


そう、と飼い主さんは呟いて、お話の続きを話し始めた。


「……気は動転しているのに、頭は不思議と冷静だった。

私は急いで携帯を取り出して、救急車を呼ぼうとした。
『もしもし!?なんか事故があったみたいなんですけど、救急車お願いできますか!?
え?場所ですか??』

場所なんてわかるはずないでしょ!?
そうわめきたくなるのを必死で押さえて、前に先輩に教えてもらった住所を思い出そうとした。

事故現場は、齋藤先輩の家のすぐ近くだから、先輩の住所さえ思い出せれば……
えーと……

『I県O市S町4丁目20-8近辺です!』
わかりました、すぐ行きます、という声がしてから、電話はぷつりと切れた。

私は携帯をしまってから、恐る恐る先輩に近付いた。

信じたくなかった。
こんなことが、起こるなんて。

……先輩だと、信じたくなかった。
誰か、別の知らない人であって欲しい。

大切な人を、もう失いたくない……。


『……あなた……先輩ですよね……?
先輩なんだったら、返事してください……

何か……言ってくださいよ……』

返事は、なかった。


これは先輩じゃない。別人だ。

そう思おうとしても。


私と同じ学校の制服。
少し裾が短めのズボン。
黒いリュックサック。

……白い文字で『齋藤』と書いてある…蒼い名札。

全てのものが、『別人ではない』ということを示している気がして。


これは夢なんだ。
そう思おうとしても。

衝撃で歪んだ自転車。
血に濡れたアスファルト。
周りの景色。

全てが、とても生々しくて。

『これは現実なんだ』そう思わざるを得なくなる。


…駄目。
泣いちゃ駄目……。

先輩の前で、こんな情けない泣き顔なんて、さらしたくない。


そんな気持ちとは裏腹に、涙が溢れる。

『……齋藤、先輩……っ!』

地面に崩れ落ちる。
ピシャッ…と音がする。


私は、先輩の体を抱き締めた。
私よりは背が高くて、少し細めなその体は、傷だらけ、血だらけだった。

私は、制服が血で紅く染まっていくのも気にならなかった。

ただひたすら、その傷だらけな体を抱き締めていた。

これは全て夢で、いつか覚めるんじゃないか。

あり得る訳がない考えを抱きつつ、
救急車のサイレンが辺りに響きわたるまで、ずっと。」
13/09/28 22:19更新 / 美鈴*
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■作者メッセージ
サブタイトル間違えたので訂正しました。
すみません。

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