連載小説
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追試
(ガーン)

(あ〜 そんなぁ… 追試… ついし… もう なんでこう頭わるいんだろう)

この前の中間の数学のテストがかえってきたときだった。

チラッと横を見る。(98点…)「エー!スゴイ!」「エッ」「涼ちゃんすごい」

「あ イヤ…」「ウソ なんでそんないいの」(あ〜 それにくらべてあたしってば)

キンコーン カンコーン

「では来週、月曜の放課後、該当者は残るように」

「ふうちゃん なにしてんの、お昼だよ」「うん、今日は食欲ないなぁ」

「ん さてはふうちゃん追試組?でしょ」「シュン」

「アハハ、落ち込んでもしょうがないじゃん、どうにかなるよ」

「そーゆーなっちゃんはどーなのよ」「ん、あたしはギリギリセーフ」

「ん、じゃいいじゃないか!あたしはどーすんのよ、なっちゃん数学おしえて」

「そんなこといったって、あたしだってふうちゃんとドッコイドッコイだもん」

「だって50点以上とれなかったら親に注意がいくなんてヒドイよね」

「月曜まで3日しかないんだよ、あたしにできると思う?」

「そうだ!涼くんにでも教えてもらったら? 彼、アタマよさそーじゃない」

「よさそーじゃなくていいの!それもかなりね」「へー そーなの」

「さっきテストのぞいたら98点だった」

「マジ?これはぜったい使わなくっちゃね、いいチャンスだし」

「……」「ね、教えてっていいなよ」「ヤダ」「なんでよ」「いいよもう」

(まったく ここんとこ、いろいろあったから勉強どこじゃなかったんだもん、

なんて結局、勉強嫌いのあたしが悪いんだけどね)

放課後。

「なっちゃんかえろ」「ふうちゃんちょっとまってて、すぐくるから」

(あー明日からの土、日、ちょっとは勉強するか…)

「あ、おまたせー さ、いこー」「なにしてたの?」

「ふうちゃんOKだって、やったね!」「なにが?」

「涼くんからOKとったよ。日曜の午後ならいいって」「?」

「もうふうちゃんってばー涼くん数学おしえてくれるって!」「!…どこで?」

「涼くんち、ホラ、地図かいてくれたよ。これはふうちゃんが持ってて」

「じゃあたしの追試のこと、バレちゃったんだ」「だってしょうがないじゃん」

「で、なんかいってた?」「笑ってた」(ハァー ガックリ…)

「ねェ なっちゃんもいっしょに行って」

「ん マァ、あなたがたの監視役ということで」

「なによソレ」「あ、さむい、ストーブが恋しい」「あたしも、もう冬だねー」

「じゃ日曜日だよ、日曜の1時半って言っといたから。いい、わかった?

ぜったい忘れちゃダメだよ、じゃーね、バイバイ!」「バイバイ」

(まったくなっちゃんってば、イザってときホント、頼りになるんだから)

・・・・・・・・・・・・・・・

日曜日 なんていい天気なんだろう

こんな日は外で思いっきりピクニック気分にひたりたい。でもあたしは…

ちょっぴりみじめ。でもちょっぴりルンルン気分。

「ふうちゃん電話、夏海ちゃんから」あたしはちょっとヤな予感がした。

「なっちゃんどーしたの」

「うん ふうちゃんあのね、今日急に親戚の子が来ちゃってさ、これから

つきあってあげなきゃいけないの。それでね、今日悪いけど、ふうちゃん

ひとりで行ってくれる?」

「そんな… なっちゃん行かないならあたしも行かない」

「ダメだよ、せっかく涼くんOKしてくれたんだよ、ふうちゃんのために。

だからぜったいひとりでも行ってよ」

「だって」「じゃぜったいね、今日はホントごめんね」

「あ…」ガチャッ「なっちゃん、これってもしかして最初から…」

ドッと疲れがでてきた。(あたしひとりなんてどーしよー…)

午前中は何となく過ぎていき、気づいたらもう1時ちょっとまえだった。

(ウヮー はやく支度しなきゃ、なんてべつに支度なんてないか)

でもカガミを見たら、なんかサエナイ顔。 服はこれでいい? 髪は?

おサイフに入れといた地図を見てみる。

うん、これなら10分位かな、ちょうどいい時間かな。

・・・・・・・・・・・・・・・

「おかあさん、行ってくるね」「ハーイ あんまり暗くならないうちに帰るのよ」

「うん」カチャ、テクテク…「あ、勉強道具忘れた」カチャ 

「あら、おはやいお帰りね、忘れ物?」「うん、ちょっとね」

「じゃ行ってきます」「はいはい」

(あー こんなにドキドキしてるなんて… なっちゃん明日会ったらなんか

おごってもらわなくっちゃ)

「ここか たしかまだ新しいマンションだよね、ここ」「エッと…302、302と…」

(オートロックか…)やっぱこのまま帰っちゃおかな。

「ふうちゃん」「あッ… ども」「もう来る頃かなって思って」

「あの…今日はよろしくお願いします」「ハハ、べつに。アレ、広瀬さんは?」

「なっちゃん急用で来れなくなって…」

「え、あ、そーなんだ。ウーン、それじゃ天気もいいことだし、

土手にでも行きますか」

「えッ、ウ、ウン、そだね、の〜んびりお散歩でも?」

「なーにいってんの、べんきょうでしょ」「エー、アー、そーだよね、やっぱり…」

「じゃ、ちょっとまってて」

(なーんだ涼ちゃん、あたしのために気ィつかってくれたのかな)

「OK!」「こんな日に家の中じゃもったいないもんね」「だろ」

「ねェ涼ちゃんってさぁ、休みの日とか何してんの?」

「ウーン、ま、いろいろとゴロゴロしてるかなぁ」「なにそれ、へんなの」

「健太たちとはよく遊んだりしてるよ。サッカーとか、野球とかね」

「ヘェそう、そういえば涼ちゃんまだ部活入らないの?」

「うん、なんかこう、やりたいなってゆーものがなかなか見つかんなくて」「ふーん」

「ふうちゃんは何部だっけ」

「あたしは美術部だよ。といってもあんまりでてなかったりして、

ホントはマンガかくのスキなんだ」

「ヘェー じゃ将来はマンガ家?」「ウン、なれたらいいなーって」

「いいネ、今度なんか作ったら見せてよ」「うん、いいよ、

でも自分の満足するものって、できないものなんだよねー、なかなかさ」

「ん そうかもね」

「涼ちゃんギター上手でしょ、自分でうた作ったりするの?」

「ときどきやってみたりするけど、でも自分の満足するものって、

できないものなんだよねー、なかなかさ」「ヤダー、涼ちゃんってば!」

「あ、あのへんにすわろっか」「うん」

「さてと、それでは始めますか」「ハーイ」「で、どこがわかんないの?」

「エッとー 計算はだいたいわかるかなーって思うんだけど… 図形はもうサッパリ」

「…じゃとりあえずこの前のテスト問題、最初からいきますか」「はい」

・・・・・・・・・・・・・・・

「どう、わかる?」「うん…わかったみたい…」「ホントに?」「うん…」

「じゃこの問題やってみて」

「うん、あ、ちょっとまって。なんか頭痛くて、あたしってこーゆーの見てると

どーも拒絶反応おこすみたいで…」「しょーがないなぁ じゃちょっと休憩、ホラ」

「あッ アリガト、あたしこれスキ!」「オレも」

(チョコ…あッ、チョコで思い出した!)

「ねェ涼ちゃん、いつだったかさ、小さい女の子助けたときあったじゃん。

イヌ追いかけて、車にひかれそうになったときのこと。

あのときさ、キミ、フシギなこと言ったよね、

チョコがどーのこーのって。たぶんあの子にしか、わからなかったこと、なんで、なんで

涼ちゃんにわかったの? あたしあのとき、へんだなって思ったのにずっと忘れてた」

「…たぶん信じないと思うけど、オレ、ひとのカラダに触れると、

そのひとが何思ってるか、わかっちゃうんだ」「?! ウソ、なんでそんなことできるの」

「よくわかんないけど、イナカのじいちゃんが亡くなったときからそーなった気がする。

オレ、おじいちゃん子だったから」「じゃおじいさんが亡くなるとき、キミにその能力を

授けてくれたってことか」「オレあの時、小学校の1年になったばかりでさ、そんなことが

できるってわかったのは、かあさんがなんかの時オレのこと抱きしめたとき、

最初はわからなかったけど、大人がそうするたびに、ひとの心が読めるんだ。

で、ホントなんだってね」

「ねェねェ、それってただちょっと肩に触れたぐらいじゃわかんないの?」

「うん、こうやって抱きしめると、むこうから抱きしめられてもおんなじだけどね。

心臓の鼓動が伝わると、思ってる声が聞こえてくるんだ。

あッでも最近はこの能力も薄れてきたみたい、この前はグーゼン。

ま、あんまり試す機会もないしね」

「う、うん、そーだよ、そんなの、わからなくたってどーだっていいじゃん。

ぜったい試そうなんて思わないでね。

そんなことしたら涼ちゃんのキャラがこわれちゃう!」

「…?」

(そうよ、だれかれかまわず抱きつかれたりなんてしたら…)

「さ、そろそろ休憩おわり。この問題やってみて」「ヴ、そーだった…」

「涼ちゃん今のはなし、家族とか知ってんの?」

「いや、言ってないから知らないと思うけど」

「じゃあたしとふたりだけのヒミツね、ね!」「うん」

(ふたりだけのヒミツなんてステキじゃない!)

「はやくこれ、おわりにしよう」「ハーイ」

(エート…これ、どーやるんだっけ、ん、とこの公式はたしか…)

(これがこーだから、こーなってと)

「センセイ、できました」「?」「涼ちゃん?アレ、ねちゃったの?」

(どうしようかな…)

「オイコラ! りょう、起きろ! 眠ったら死ぬぞ!!」

「エッ?! ア、アレ…」「アハ、涼ちゃん寝ちゃうんだもん」

「ゴメン…出来た?」「ウン」

「どれどれ… ネェ、この5aって、どっからでてきたの」

「エー、ン、とね、それは… この3bさんとお友達になりたいって」

「…あ、そう」「うん、エヘ」

「ハッ ハックション! ふうちゃん、これ、ックション!」

「アハハ 涼ちゃんこんなとこで寝ちゃうから、カゼひくよ、ハイ」

あたしはポケティシュをさしだした。

「サンキュ… ハァックション!」

・・・・・・・・・・・・・・・

翌日、数学の授業にて

「涼ちゃん、これアリガト」「あァ」

(ゆうべは貸してもらったノートであたしなりにガンバッたんだ)

「!」

(あッ 涼ちゃん気づいたかな、じつはノートに告白しちゃったんだ)

「ハ、ハイ」

「エ、なに?」(涼ちゃん、さされたの、ゴメン、知らなかった)

トナリでイビキかいてる健太は問題外だし。

だれかが黒板の問題をやるんだって、おしえてくれた。

その子に合図して涼ちゃんは前へ出て行き、サ、サ、サッと問題をといて、

先生にかるく会釈してもどってきた。(カッコイイ!)

ちなみにその日の追試は72点! これはチョースゴイ!!

あらためて涼ちゃんに感謝してしまうわたしでした。
20/02/08 01:09更新 / 風香
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