「お話」6.
「『あのさ……
俺が、ずいぶん前に言った言葉、覚えてる??』
先輩は、ふと思い出したように、呟いた。
誰に聞かせるためでもないような。
まるで、先輩が先輩自身に問いかけているような。
そんな、いつもと違う話し方をする先輩に、少し驚いた。
『言葉…って言っても色々ありますけど……
…覚えてるものを全部言っていきましょうか??』
『いやいやそれはやめろ。』
二人でクスクス笑った。
少し、場の雰囲気が明るくなった気がした。
『分かってますよ。【幸せは、何気無い日常の中に詰まってるんだよ】ですよね??』
『あーおしいな』
えっ??
違うの??
『【幸せは、何気無い日常の中に詰まってるんだよ。
それなのに人は、それに気が付かず、更なる幸せを求めようとする。】
…が正解。』
『正解も不正解もあるんですか?』
『当たり前』
ははは…と先輩は少し笑いながら、私の方を見た。
そして、急に真剣な顔になって、
『俺、さ……
入院してから気が付いたんだ。』
そんなことを言い出した。
たまに先輩は話が変な方向にそれていくから困る…
『何を……ですか??』
とりあえず波長を合わせてみた。
先輩は少し考えてから、言った。
『俺は、あんな事言っといて、本当は何も気が付いていなかったんだ…って。
気付いて無かったんだ。
ずっと、俺を支え続けてきた存在がいるってことにな。』
『……』
私は黙って聞いていた。
『俺を、陰で支えてくれていた人が。
どんな時でも、俺の側にいてくれた人が。
どんな事があっても、二人で支えていける、そんな人が。
時には励まし合って、時には笑いあって。
そう、俺の部活においての、松崎さんみたいな存在が…いるって事の、幸せに…な。』
『………。』
『……こんな事、早めに気が付いていれば。
もっと、松崎さんの事を、大切にしていけたのにな…。』
『……………。』
『喧嘩なんて、しなかったかもしれないのに……。』
しばらく、沈黙が続いた。
部屋に響くのは、規則的な『ピッ…ピッ…』という音だけ。
『……あのさぁ……』
『何ですか……?』
次は何の話?
今日はいつになく暗い、深い話をしてる気がするけど……
次は何?
『俺、もう死にますよ…って感じする、話をしてたけど……
まだ…死ぬ気なんて……ないからな?
』
『え?』
いきなり何を言い出すんだこの人は。
先輩は、微かに微笑んだ。
『約束、しただろ……?
コンクールで、金賞とって…二人で、笑って…二人で…泣こう、ってさ。
だから……』
先輩は、私の頭をくしゃりと撫でた。
『もう、泣くな、松崎さん……
涙は、その時の為に、取っておけよ…』
…え?
泣いてるの?私……
気がつかなかった…。
『俺は…松崎さんの、泣いてる顔なんて……見たくないから、さ。
笑っててよ………いつもの……ように…
俺が……いつものように…笑わせて、あげるからさ………』
『先輩………?』
『俺は……松崎さんの…笑顔が、見たい…から……………』
ふと、頭の上の手が、力をなくして。
滑って、落ちていった。
『ピーーーーーー…』
機械の音がなり響く。
その画面は、もう波を映していなかった。
緑色の、一本の、まっすぐな線が、あるだけだった。
『…………え…?』
辺りの動きが、酷くゆっくりに見えた。
医者が近寄ってきた…。
お願いだから……言わないで。
その言葉を、聞きたくないんだ。
私は、手で耳を塞いだ。
『……ーーーーー。』
医者の発した言葉は、しっかり耳を塞いだ私の耳には、入ってこなかった。
けれど、なんと言ったのかなんて…もうわかってるから。
私は、何も言わずに、さっきまで私の頭の上にあったその手を、両手で固く握り締めて。
…静かに、涙を流した。」
俺が、ずいぶん前に言った言葉、覚えてる??』
先輩は、ふと思い出したように、呟いた。
誰に聞かせるためでもないような。
まるで、先輩が先輩自身に問いかけているような。
そんな、いつもと違う話し方をする先輩に、少し驚いた。
『言葉…って言っても色々ありますけど……
…覚えてるものを全部言っていきましょうか??』
『いやいやそれはやめろ。』
二人でクスクス笑った。
少し、場の雰囲気が明るくなった気がした。
『分かってますよ。【幸せは、何気無い日常の中に詰まってるんだよ】ですよね??』
『あーおしいな』
えっ??
違うの??
『【幸せは、何気無い日常の中に詰まってるんだよ。
それなのに人は、それに気が付かず、更なる幸せを求めようとする。】
…が正解。』
『正解も不正解もあるんですか?』
『当たり前』
ははは…と先輩は少し笑いながら、私の方を見た。
そして、急に真剣な顔になって、
『俺、さ……
入院してから気が付いたんだ。』
そんなことを言い出した。
たまに先輩は話が変な方向にそれていくから困る…
『何を……ですか??』
とりあえず波長を合わせてみた。
先輩は少し考えてから、言った。
『俺は、あんな事言っといて、本当は何も気が付いていなかったんだ…って。
気付いて無かったんだ。
ずっと、俺を支え続けてきた存在がいるってことにな。』
『……』
私は黙って聞いていた。
『俺を、陰で支えてくれていた人が。
どんな時でも、俺の側にいてくれた人が。
どんな事があっても、二人で支えていける、そんな人が。
時には励まし合って、時には笑いあって。
そう、俺の部活においての、松崎さんみたいな存在が…いるって事の、幸せに…な。』
『………。』
『……こんな事、早めに気が付いていれば。
もっと、松崎さんの事を、大切にしていけたのにな…。』
『……………。』
『喧嘩なんて、しなかったかもしれないのに……。』
しばらく、沈黙が続いた。
部屋に響くのは、規則的な『ピッ…ピッ…』という音だけ。
『……あのさぁ……』
『何ですか……?』
次は何の話?
今日はいつになく暗い、深い話をしてる気がするけど……
次は何?
『俺、もう死にますよ…って感じする、話をしてたけど……
まだ…死ぬ気なんて……ないからな?
』
『え?』
いきなり何を言い出すんだこの人は。
先輩は、微かに微笑んだ。
『約束、しただろ……?
コンクールで、金賞とって…二人で、笑って…二人で…泣こう、ってさ。
だから……』
先輩は、私の頭をくしゃりと撫でた。
『もう、泣くな、松崎さん……
涙は、その時の為に、取っておけよ…』
…え?
泣いてるの?私……
気がつかなかった…。
『俺は…松崎さんの、泣いてる顔なんて……見たくないから、さ。
笑っててよ………いつもの……ように…
俺が……いつものように…笑わせて、あげるからさ………』
『先輩………?』
『俺は……松崎さんの…笑顔が、見たい…から……………』
ふと、頭の上の手が、力をなくして。
滑って、落ちていった。
『ピーーーーーー…』
機械の音がなり響く。
その画面は、もう波を映していなかった。
緑色の、一本の、まっすぐな線が、あるだけだった。
『…………え…?』
辺りの動きが、酷くゆっくりに見えた。
医者が近寄ってきた…。
お願いだから……言わないで。
その言葉を、聞きたくないんだ。
私は、手で耳を塞いだ。
『……ーーーーー。』
医者の発した言葉は、しっかり耳を塞いだ私の耳には、入ってこなかった。
けれど、なんと言ったのかなんて…もうわかってるから。
私は、何も言わずに、さっきまで私の頭の上にあったその手を、両手で固く握り締めて。
…静かに、涙を流した。」
14/06/07 22:59更新 / 美鈴*