連載小説
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「お話」4.
「私は、齋藤先輩が思ったより元気だったから、少し安心した。
よかった。大切な人を失わなくて……


それからは、毎日お見舞いに行った。
平日も、休日も。

少しでも長い時間、先輩と過ごしたくて。
毎日、先輩に話しに行った。


学校や部活であったこととか。
たまに相談したり、愚痴も言っちゃったり。
冗談を言って、笑いあったり。

幸せな、日々だった。

部活で先輩に会えないのは寂しいけれど、その分、ずっと二人きりでいられた。

その事が、私にはすごく幸せだったんだ。


けれど。事故から一週間ぐらいたったある日。
私は気がついたんだ。

先輩が、少しずつ、やつれていく、とでも言うのかな…?
どんどん元気をなくしていくようで、とても不安になった。
いつか本当に先輩は………

その時が来るのが、怖い……。


急に話さなくなった私を不思議に思ったのかな?
『……松崎さん……?
どうしたの…?』
とても心配されて。

けれど、私は首を横に振ることしかできなかった。

『……何か、悩み事でもあるのか?
…別に迷惑がったりしないから。

いつでも、相談しろよな。』

そう言って、先輩は弱々しく、私の頭を撫でた。
その弱々しさが私を余計に不安にさせた。

ーもうすぐ、先輩はこの世から消えていってしまうのではないかー

考えたくもないことが頭をよぎった。

…そんなことない。
先輩はそんなに弱い人じゃない。
そんな簡単に死ぬわけ…ない………よね?
…そうだと思いたいよ………。


……せめて、先輩にはもう心配してほしくなかった。
だから、私は無理矢理笑顔を作って…
『…ありがとうございます。
でも、もう大丈夫です。すみません、心配させて……』
そう、先輩に向かって言った。
そしたら、先輩は優しく微笑んでくれて。

……この時間が、永遠に続けばいいなって。
…そう、思ったんだ………。
…けれど。

そんな私の願いは、届く訳なんてなくて。


その夜。
深夜にいきなり、家の電話が鳴り響いた。
…何?こんな夜遅くに誰…?
時計を見ると、夜中の1時。
電話してきた人に少し腹をたててから、もう一度寝ようと布団を被った時。

『はい、もしもし。』
電話に出たお母さんの声が、壁越しに聞こえた。
『あの…どちら様で……はい。
由紀ですか??…ちょっとお待ちくださいね…。

由紀ー?電話よ~!』

…なんでこんな夜に、私宛に電話がかかってくるのよ……
人の眠りを邪魔しないで……

そう呟きながら、一応起き上がって、電話を取った。

『もしもし……松崎由紀ですけども…』
『あ、もしもし。S病院の者ですけども……』
S病院…?あぁ、先輩が入院している所だったっけ。
そう言えば電話番号教えてたな……

『齋藤光希さんの容態が悪くなりまして……
齋藤さんが松崎さんに面会を求めてるんですけども……』

……え?

先輩の、容態が、悪くなった……?

『…分かりました。
できるだけ早くそちらを伺います!』


そんな。
嘘だ……。

目の前が真っ暗になった、そんな気がした。


S病院は、私の家から歩いて数分。
けど、いくらそんなに近くても時間が時間だから、病院の前までお母さんに着いてきてもらうことにした。

先輩………

どうか、死なないでください………」
14/06/05 23:32更新 / 美鈴*
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