「お話」終章
「長い夢を見ていた気がする。
長くて、悲しい夢を…
目が覚めたら、夢のことは何も覚えていなかったけれど、
まぁこれもいつものこと。
なんとも思わなかった。
けれど、なんでだろう?
心にぽっかり穴が空いたような感覚。
まるで、大切な何かを忘れて、亡くしてしまったような……
けれど、いくら考えても、それがなんなのかはよくわからなかった。
学校へ行っても、その感覚は消えなかった。
この世界の何かが間違っている、
そんな違和感を覚えていた。
でも、何がおかしいのか全くわからない。
考えれば考えるほど、頭の中にもやのようなものが広がって、余計に分からなくなってくる。
忘れた何かを
間違っている何かを
私が思い出すことを、誰かが邪魔しているみたいだった。
いつの間にか、長かった授業が終わり、部活の時間になっていた。
部室に行こうとすると、軽い頭痛が襲ってきた。
けれど、軽い頭痛なんて日常茶飯事。
気にする程のことじゃない。
部室に近づいていくほど強くなる頭痛。
流石にこれはおかしい、そう思った。
体調不良で、帰ろうかとも思った。
けれど、何かが私を引き留めた。
聞いたこともない誰かの声が、
『帰るな』
そう私の頭の中で静かに響いた。
響いたその声は、
どこかで聞いたことのあるような懐かしい声だけれど、
いくら考えてみても思い出せない。
『ふぅ…』
今日はずっとこうだ…
疲れてるのかなぁ?
ここ最近、真面目に勉強してたし…
頭が割れそうに酷い頭痛に耐えながら、
なんとか部室に着いて荷物を下ろす。
椅子に座ると、少し頭痛が収まった気がして。
やっぱり疲れてるのかなぁ、と
私はお茶を一口飲んだ。
出欠の確認も終わり、
なんとか楽器庫まで歩いていく。
裕里ちゃんとかに心配されたし、
帰った方がいいとも言われたけれど、
やっぱり、帰っちゃいけない気がした。
楽器庫に入って、私は気付いた。
ベージュのケースの存在に。
『ねぇ、あれ…誰の?』
近くにいた友達に聞いてみても、
『いや…知らない。
だいぶ前から置いてあったよね…』
と返されただけだった。
ホルン…だよね?
ホルンの置いてある棚の目の前に置いてあるってことは…
ホルン、なんだよね?
私はそっとケースに触れた。
瞬間、何かが無理矢理思い出されるような、そんな感覚を感じた。
走馬灯のようなものがよぎる。
何かが少しずつ思い出されて行く…
『齋藤…先…輩…?』
ふと浮かんだその名も、知らないはずなのに聞き覚えがあった。
いつの間にかその感覚から抜け出していた私は、
いつの間にか開かれていたケースの中を見る。
学校の楽器とは全然違う
ラッカーも剥がれてない
傷もへこみもない
黄金色に輝くホルンがそこにあった。
『…あれ?』
紙切れもひとつ、そこに入っていた。
【やっぱり、忘れられるのは…嫌だ。
だから、松崎さんがこれで思い出してくれることを祈ります。
齋藤 光希
P.S.
前にも言った通り…
このホルンは、松崎さんが使ってくれ。
俺の存在はみんな覚えていないから、
置いていたって無駄だしな…
わがままで、ごめん。】
『思い、出しちゃったじゃないですか…
どうしてくれるんですか…』
私に待っていてほしいと、
そういうことなんですか…?
この世界で私しか知らない
貴方の存在を胸に…
『…待っときますよ。
覚悟しておいてくださいよ…?』
もしまた目の前に現れたら、
散々文句とか愚痴とか言って。
それから、また、あの日のように。
二人で、笑い会いたいな。
だから…それまで、待ってる。
君との思い出を糧にして………」
長くて、悲しい夢を…
目が覚めたら、夢のことは何も覚えていなかったけれど、
まぁこれもいつものこと。
なんとも思わなかった。
けれど、なんでだろう?
心にぽっかり穴が空いたような感覚。
まるで、大切な何かを忘れて、亡くしてしまったような……
けれど、いくら考えても、それがなんなのかはよくわからなかった。
学校へ行っても、その感覚は消えなかった。
この世界の何かが間違っている、
そんな違和感を覚えていた。
でも、何がおかしいのか全くわからない。
考えれば考えるほど、頭の中にもやのようなものが広がって、余計に分からなくなってくる。
忘れた何かを
間違っている何かを
私が思い出すことを、誰かが邪魔しているみたいだった。
いつの間にか、長かった授業が終わり、部活の時間になっていた。
部室に行こうとすると、軽い頭痛が襲ってきた。
けれど、軽い頭痛なんて日常茶飯事。
気にする程のことじゃない。
部室に近づいていくほど強くなる頭痛。
流石にこれはおかしい、そう思った。
体調不良で、帰ろうかとも思った。
けれど、何かが私を引き留めた。
聞いたこともない誰かの声が、
『帰るな』
そう私の頭の中で静かに響いた。
響いたその声は、
どこかで聞いたことのあるような懐かしい声だけれど、
いくら考えてみても思い出せない。
『ふぅ…』
今日はずっとこうだ…
疲れてるのかなぁ?
ここ最近、真面目に勉強してたし…
頭が割れそうに酷い頭痛に耐えながら、
なんとか部室に着いて荷物を下ろす。
椅子に座ると、少し頭痛が収まった気がして。
やっぱり疲れてるのかなぁ、と
私はお茶を一口飲んだ。
出欠の確認も終わり、
なんとか楽器庫まで歩いていく。
裕里ちゃんとかに心配されたし、
帰った方がいいとも言われたけれど、
やっぱり、帰っちゃいけない気がした。
楽器庫に入って、私は気付いた。
ベージュのケースの存在に。
『ねぇ、あれ…誰の?』
近くにいた友達に聞いてみても、
『いや…知らない。
だいぶ前から置いてあったよね…』
と返されただけだった。
ホルン…だよね?
ホルンの置いてある棚の目の前に置いてあるってことは…
ホルン、なんだよね?
私はそっとケースに触れた。
瞬間、何かが無理矢理思い出されるような、そんな感覚を感じた。
走馬灯のようなものがよぎる。
何かが少しずつ思い出されて行く…
『齋藤…先…輩…?』
ふと浮かんだその名も、知らないはずなのに聞き覚えがあった。
いつの間にかその感覚から抜け出していた私は、
いつの間にか開かれていたケースの中を見る。
学校の楽器とは全然違う
ラッカーも剥がれてない
傷もへこみもない
黄金色に輝くホルンがそこにあった。
『…あれ?』
紙切れもひとつ、そこに入っていた。
【やっぱり、忘れられるのは…嫌だ。
だから、松崎さんがこれで思い出してくれることを祈ります。
齋藤 光希
P.S.
前にも言った通り…
このホルンは、松崎さんが使ってくれ。
俺の存在はみんな覚えていないから、
置いていたって無駄だしな…
わがままで、ごめん。】
『思い、出しちゃったじゃないですか…
どうしてくれるんですか…』
私に待っていてほしいと、
そういうことなんですか…?
この世界で私しか知らない
貴方の存在を胸に…
『…待っときますよ。
覚悟しておいてくださいよ…?』
もしまた目の前に現れたら、
散々文句とか愚痴とか言って。
それから、また、あの日のように。
二人で、笑い会いたいな。
だから…それまで、待ってる。
君との思い出を糧にして………」
14/05/14 23:29更新 / 美鈴*