逆説
うだるような狂気の季節も
やがて過ぎ去って
あの頃の恥ずべき過ちは
ぼくらのせいではなかったと
内分泌系のせいにでもしたくなる
思いやりという
知的能力をもってしても
その人にしか見えない地平があり
その人には見えない地平がある
プロパティの束が
オブジェクトになるように
モノとはたらきの区別もまた
曖昧に揺らいでいる
健全な肉体には健全な魂が宿る
と古代ローマの詩人は語ったが
モノ に宿る 魂 という性質が
意識 という鏡に映し出され
いわば
肉体 という幻灯機が
魂 という映像を映し出す
見通しの効かない
不透明な世界の中で
じっと目を凝らすとき
必然的に立ち現れる境界線こそ
ぼくらそのもの なのかもしれない
その先に広がる世界は
あなた なのか
あるいは そうではないのか
いにしえのご先輩方は
みえる や さわれる のような
モノである という性質が
精神 という性質と
分かち難く結びついている
と教えてくれたけれど
その結びつきを
ぼくらは未だよく分かっていない
「肉体という器が変われば
魂のかたちも
それに合わせて変わって
きっとそれは
生まれ変わりなんかよりも
ずっと壮大なものなのよ」
若かりし日の彼女は
そんな突拍子もないことを
言っていたけど
知恵のない僕には
今になってもよく分からない
つくづく思うのは
あなたは ただ
上機嫌でいたいだけ
ぼくも ただ
上機嫌でいたいだけ
だれもが ただ
上機嫌でいたいだけ
蠍も 毒蛇も 人殺しだって
いても差し支えないから
存在するのであり
彼らが現に受けている祝福に
嫉妬したところでしょうもない
ぼくの苛立ちも
あなたの苦しみさえも
きっと祝福されているのだし
ただただ“Yes”と
受け流していこうか
ライム色に照らされていた
銀杏の葉が
いよいよ黄金色に輝きだし
そんな ふとした喜びを
至福の幸せと感じてしまう罪悪感よ
長雨が止むのを待つより
止まない雨の中で
生きる強さを探してる
熟れた果実を眺めるような
いちばん最後の
いいところ
雨はとっくに
止んでいたかい?
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