山、萌ゆ

田んぼ道の傍らに
オオイヌノフグリの星空模様

雪解け水で湿った大地に
坐禅草の仏炎苞が
ほんのり明かりを灯し

柔らかな落ち葉の蒲団を押し分けて
顔を出した福寿草は
小さな太陽さながら眩しく輝く

車窓から見える里山は
炭火のように赤々と萌えて

通りすがる人の心を
ざわめかせる

スマホの自撮り動画を見ながら
化粧する電車内の女子高生は
鏡像対称ではない
ありのままの自分を見つめてる

合わせ鏡を見るように
脳が描く色界から脳を眺めては
脳が描く色界から脳を眺めてる、と思う

こんなにも美しい世界が
ほんとうに存在しているのだろうか?

見えない賽子は
まったくインチキかも
知れないというのに
“ある”のか “ない”のか
二つに一つと言い聞かせ
イチかバチか
“ある”の方へと賭けてみる

陽気にほだされて
水かさを増した清流が
踊りながら 煌めきながら
勢い盛んに流れ下ってゆく

世界へ投げ出された命は
容赦ない奔流に呑み込まれ
もみくちゃにされながらも
やがて 海を目指しはじめる

潔くも 儚くもあるその様は
何も託すことなく消えゆくことが
決して罪なんかではないのだと
信じる気にもさせてくれる

さぁ 行こうか
あの わくわくするような
素敵な孤独を また味わいに

24/04/11 06:26更新 / しそら
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