日曜の冒険者
生まれたときに夢はなく
大きくなっても夢はなく
せめて休日くらいは
冒険者でありたいと
山々の奥深く潜り込んだ
目指すとは何なのか
辿り着くとは
帰還するとはどういうことか
ぼんやり考えていたよ
何度もやってみて
味わってみて
いろいろ考えたけど
でもやっぱり
よく分からないや
幸せも不幸せも
味わえればそれで十分
分かる必要なんてないじゃない?
って言うけれど…
学生時代に
少なからずが味わった
『解なし』という『解』の衝撃
あのボンクラ教師は
僕らに多くを教えてくれた
誰もが
言い出しっぺの利益に
群がり貪る中で
とうに特許の切れた
数式と言葉で
過去の英雄たちの
アーカイブに
自由にアクセスし
正しく考える
と皆が呼ぶものが
いったい何なのかを
正しく考えた末の
『解なし』と
そうでない時の
『解なし』とは
何が違うのかを
見当たら『ない』
ではなく
原理的に『ない』
ということが
どういうことなのかを
誰がどう検証するのか
査読もままならない
この世の中で
答えがないことを
証明し続けること
こんな矛盾だらけの
歪んだ快楽があるかい?
『解なし』という『解』に
『解なし』
無限ループを
数学的な帰納で覗き込み
無限の果てに何があるの?
それはもちろん神でしょ
彼は目を細めて笑った
大した人間になれなくてごめん
それでも許してくれるよね
そうとしか思えないことを
かき集めるより
そうでもないと思える心を
手放さずに
それでも
いけると信じたなら
土砂降りだろうが
真夜中だろうが飛び出した
あの遠い日
この寄る辺ない世界で
土砂降りだろうが真夜中だろうが
格好よかろうが悪かろうが
人は生きてゆくから
ヘトヘトになりながら
逃れ着いた
猫の額ほどの叢に
倒れるようにひとり寝転がり
見上げた
あの茫漠透明な空の眩さよ
太陽の揺らめきよ
蠱毒の儀式のような
この世界で
孤独こそが
悪意なき空間で
でも
孤独だけじゃ
狂いそうになるから
ねえ
君はなんのために
生まれてきたの?
まな板の鯉はいっそ
生まれなかったらよかったのに
とさえ思う
誰かが勝手に始めた
ゲームに巻き込まれ
『ゲームをやめる』に
一票入れても
ゲームは続き
ゲームが終わっても
次のゲームが始まるだけ
そしてまた
大決断のENTERキーを
心許ない小指で押す
何が善で 何が悪か?
たとえ悪を倒しても
誰かが誰かを倒すだけで
悪は滅びないんだし
遠い昔の戦争など
いつか出会った蚊のことのように
忘れてしまいたい
聞かせておくれ
人に生まれた嘆きと喜びを
儚きものを祝福してくれよ
永遠を讃えてくれよ
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