美学

ここでいう美学とは
いわゆる美学ではなく
趣味のことである
善き哉

淡色に輝く空に
綿雲がじんわり
流れていく
善き哉

森の住人たちが
楽しそうに
さえずっているけど
本当に楽しいのかは
知らない

牧歌的な風景の中にも
凄惨な弱肉強食が
繰り広げられるのを
知っている

今この場所で
圧倒的な強者は誰か
ということを
知っているからこそ
呑気な気分で
いられるだけ

ガラス越しに毒蛇を
眺める好奇心は
持ち合わせていても

木陰で眠る狼を
撫でに行く勇気は
到底ない

彼らが天敵の襲来を
警戒しながらも
美しく歌うのは
人々の心を和ませる
ためじゃない

この時期だからこそ
その美声を誇って モテたい
その一心なのかも知れない

カラオケ自慢のYouTuber
と変わらないのかも

とにかく
誇ること モテること

子孫繁栄
善き哉

大切なのは
生気に溢れているか
ということなんだ

生物とは
情報の拡散と
そのための
自己保存なのだと
生物学者たちが
本業ついでに言う

でも それは
命をつなぐ生命たちの
結果論だし
そうならなかった あるいは
そうしなかった生命たちの
声なき声の代弁とは違う

むしろ
命をつなぐというのは
永遠の命にさよならを
告げることにした生命に
金魚の糞のように
しつこくつきまとう
あるいは 尾てい骨
じゃないかってさえ
思うんだ

でも 誰かが何かを
誇るんだったら
やっぱり 幸せ を…かな
嫉妬や羨望でさえ
むしろご褒美と思えるくらい

せめて町一番の俊足だったら
それを誇ればいいのだろうけど

一人じゃないから
争いが起こる
争いが起こるから
一人じゃ
生きて行けない 

一人じゃ得られない
喜びや幸せがあっても
一人じゃ生きていけない
理由とは違うかな

見えるものに
疑問を感じなければ
美しい景色を
見続けられるのかも
知れないけど…

人類の繁栄なんて
他の誰かに
託せばいいじゃない

さよならの美学
善き哉

21/06/22 05:07更新 / しそら
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