飼い殺し
部屋から部屋へ
移動する
巣穴の中の
哺乳類
部屋を享受できること
その有り難みに
感謝の一欠片も示さず
傲慢不遜に生きている
部屋に壁掛けた
小さな絵画の額縁が
突如落下し
大きな悲鳴をあげる
市販品最強の粘着力
と喧伝の両面テープで
貼り付けたフックが
青い無地の絨毯の上に
呆然とした顔をして
転がっている
所詮 粘着剤の性質やら
壁の素材やら
周囲の温度や湿度やら
その力学的諸条件の結果
でも そのとき
確かに聞いたのは
この部屋が厳かに言い渡した
僕に対する宣告文
去れ お前には
この小さく薄暗い
部屋でさえ
ふさわしくない
うるさい
僕にだって
日本国憲法第25条
で保障された
生きる権利があるんだ
沈黙が 僕をあざ笑う
誰か 弁護をしてくれよ
誰か 味方になってくれよ
この神聖なる楽園を
薄汚い地獄だと
軽々しく揶揄したばかりに
僕はこの楽園から
追放されようとしている
なんて惨めな最期
保育器の中で
大人になった子ども
保育器なしでは
生きられないから
保育器にしがみつき
生きるのです
部屋の意味を知らず
保育器の意味を知らず
ただその恩恵のみを
平然と享受し
怠惰に傲慢に生きてきた罰
逃げ出した
小高い丘陵地から
眺める夜の市街地は
闇の中に煌々と
照らし出され鎮座する
テクノロジーの要塞は
ぎょっとするほど
よそよそしく
魔法の鏡のように
僕の敗北感と劣等感を
冷酷に映し出す
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