途中退場
なにごとも
嫌々ながらやる
というのは
本当に辛いことで
人生五十年どころか
百年時代の到来なんて
眩暈と吐き気が止まらない
あのチクリとする
注射針の痛みを我慢できるのは
それがほんのいっときだからこそで
数十年ぶりに降りやんだ雨が
またすぐ降りだしたり
新型コロナウィルスのせいで
卒業式が潰れてしまったり
かけがえのない若さを
引き換えにして得たものが
なにもないことを思い知ったり
それでもあなたは
死ぬのはまだ早いと
胸を張って言えるの
死ぬ気になれば
なんでもできる
というのは
元気なときの発想で
ただただ
死の誘惑が甘美なだけで
なにかできるといっても
なにがなにやら
死にたいと思うほど
負けゲームに
のめり込んで
生きたいがために
死にたいなんて思う
もう
いいじゃないか
僕なんて
人間の薄皮を
一枚被っただけの
ちっぽけな毒虫に
過ぎないから
けれど
あなたはあなたで
とっくに成熟した
毒蛇で
ただ僕の方が
少しだけ
弱かっただけ
少しだけ
愚かだっただけ
少しだけ
年老いただけ
少しだけ
喜びより
悲しみのほうが
多かっただけ
乗り継ぎ列車を待つ
駅の中央ホームは
家族連れやなにやらで
賑やかだけど
最果て行きの列車を待つ
外れのホームは
人気もなくて
もの悲しい
でも
だからこそ
僕の胸を打つんだ
ゲームのさ中の
一喜一憂より
ゲームのあとの
静けさの
不思議な感じが
好きだった
空が好きだった
太陽も 雲も 雨も 虹も
大地も 草花も 若木も 大樹も
虫も 鳥も 小動物も 大きいのも
小さい川 大きな川
小高い原っぱ 雪化粧の山脈
遠くに思い浮かべる
ぎざぎざ模様の海や港町
静かな闇夜や 街の明かり
春 夏 秋 冬の移ろい
残酷だけど
食べ物は
なんでも美味しかったな
ただ人間が
たまらなく
恐かっただけ
嫌いじゃなくて
恐かっただけ
でもそれが
この人間世界の
禁忌だっただけ
人間を愛しなさい
ほんとは
人が好きで
あなたが好きで
面と向かっては
言えなかったけれど
暇潰しの映画館で
上映していた映画が
退屈で詰まらないと
言い残し さっさと
途中退場してしまった
あなたを
僕は今でも
思いだす
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