地上戦
黒い瞳の執行人が
地下牢に繋いだ雪男に
正義の鉄槌を下す
無表情の死刑囚を乗せた
黒い馬車が
不穏に湧き立つ雷雲に
一直線に向かい
低い空を駆けてゆく
ある晴れた
蒸し暑い夏の午後
今日も
神経過敏な正義の味方が
ご立派な使命に燃えて
血走った眼を輝かせながら
悪人どもを懲らしめているよ
ここに留まってはいけない
と誰かが耳元で囁く
怪しいような
それでいて懐かしく
優しげな声で
それは親切な忠告か
それとも破滅へと導く
誘惑の罠か
どうやったら
あの天空を駆ける馬車に
上手に乗れるだろうと
湿気を帯びた水色の空を仰ぎ
ひとり途方に暮れる
あぁ君よ
君はもう天空に去ってしまったか
それともまだこの地上で戦っているのか
あの大樹の下
大きく広がる木陰が
微風が吹き抜け
白い蝶々が流されながら舞う
仄暗い陰影こそが
天空へと旅立つ駅なのか
知ったところで仕方のない
この世界のほんの片隅で
千年前のアラブの詩人と
何ら違わぬ悩みを分かち合うという
贅沢な恩恵に浴しながら
呑気に暮らしていける場所を
腑抜けな眼をして探してる
ある晴れた
蒸し暑い夏の午後
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