他者

不規則に働くので
選挙は期日前に投票する

夏至間もない午後六時の明るさ
思い出の写真は徐々に色あせ
遠く懐かしい気配が漂いはじめる

僕らは決めることができる存在だ
それこそ即ち僕らが自由ということ

しかし
僕らの一票は余りに小さく
流れに呑み込まれること
これ即ち不自由

僕らの自由の世界は
なんて狭いんだろう

見よ
僕らの世界は
僕らの自由は
通勤ラッシュの
満員電車の中にある

ところでね
僕らといっても
いろいろあるんだよ
僕とあなたで
僕ら

僕はあなたに
僕らと言うし
あなたも僕に
僕らと言う

そしてまた
自分のようで
自分ではない
僕だって
僕らなのかもしれない

僕の意識
僕のからだ
僕は僕らであり
僕らは僕だ

僕らは
互いを滅ぼす力を持ちながら
ひとときの生命の旅を続けている

そして今 僕は
死ぬまで生きる ことに
一票を投じると 決めた

僕に一票を投じさせたのは
情報の力でも
認識の力でもなく
僕の意識から
僕のからだへの
感謝の気持ちだった

僕の意識は
僕の意識に
呼びかけた

僕らはもっと
僕らのからだに
感謝すべきだと

僕らは
僕らに
感謝すべきだと

僕らは
所有者ではなく
同居人なのだと

ただ
一つだけ
我儘を言わせてほしい

僕は
方舟には
乗らない

多くの存在を乗せて
記念すべき港から出航し
遠い世界へと旅立つ
巨大な方舟を
僕はこの滅びの大地から
手を振って
見送る

やがて
この小さな世界は
不可抗力の
巨大な波に飲み込まれ
僕らはともに
旅立つでしょう

それまで
僕も
生きるでしょう

19/07/09 23:19更新 / しそら
作者メッセージを読む
いいね!感想

TOP


まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35c