ペトリコール
改札を抜けた向こうで
君はもう 笑っていた
指先で髪を整えながら
「そんな顔しないでよ」と軽く言う
強がる声に 滲むものがあって
僕は気付かないふりをした
それが 最後の優しさだと思ったから
かける言葉もなくて 目も合わせられず
遠ざかる足音だけが空白を埋めていた
「じゃあ 元気で」
それはたぶん 僕の方のセリフだった
少しだけ離れた距離で
振り向いた君に
小さく手を上げることが精いっぱいだった
君の姿が見えなくなって
ようやく時が流れ出した
外に出て深い溜息を吐く
仰いだ空は重たく 湿っている
この匂い...
じきに降ってくるだろう
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