香花は眠りを見守る
瞳を閉じるのが怖かった
意識を手放し眠りに落ちたが最後
言葉の一つも寝返りの一つも
自分ではままならなくなるから
自分で与り知らぬその時
この心臓の鼓動が止まらないと
誰が言えようか
自然日々の眠りは浅くなり
心には澱が溜まりゆく
それでも私は眠りを恐れ
長い夜をただただ過ごす
紫花が囁いたのはその時
僕が見ていてあげるから
だからお休み
鼻を頬をくすぐり瞳を撫でて
柔らかな香りは告げた
風のように春空のように軽やかに
だから お休み
天使のようなその声に
私の瞼はするりと落ちる
眠りに落ちるその時
胸奥に聞いたのは
今にも止まらんとする自らの鼓動
嘘つき
最期に叫んだ言葉は
軽やかな笑い声に掻き消され
私は眠りの海へと落とされた
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