香花は瞳を上げさせる
凍った大地の奥深く
思いは眠っている
だから目を凝らしても
氷の向こう薄い月明かりの中
黒い影が見えるだけ
大地を掻く指先は冷たさに阻まれ
痺れと痛みばかりを生んだ
沈み込んでしまった思いに
もう私は届かない
そう認めるのは辛くて
落とした瞳には涙が浮かぶ
けれど伏せた顔の鼻先を
だれかがぱしりと叩く
下ばかり見ているんじゃないよ
聞こえない声は確かにそう告げて
瞳を上げて
ほら全身で感じてご覧
見えているものそれだけが
君の世界じゃないのだから
小さな白花は蕾を開き
甘酸っぱい香りを振りまきながら
私の鼻先をまた一つ
弾いて夜の向こうへ走り去る
残された私は凍った大地に瞳を落とし
やがてゆるゆると立ち上がる
春へと走り出すために
冬へ別れを告げるために
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