或る小説

空にくるまれたようだった
白い病棟を見上げていた
手入れのされた若々しい林のなかで

麦藁帽子が二階から落ちてくる
そんな爽やかな昼は本の中のこと
ましてや小型飛行機なんて

四人部屋の好青年は
昔同じようにこの木を使ったのだという
黄色な顔にその目を失っても
もう前だけを向くしかないようで

地獄絵図だろう
呻き声、叫び、
逃げだす方法も必要も既になく
もう前だけ向いて生きるしかないようで


19/03/12 19:38更新 / 辻葉冷弧
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