黝む夢
其処は何時でも夏の冷えた夜
凍った月を仰ぐ
雲一つなく吸いこまれそうな黒
静かに激しく波が鳴る
波打ち際で砂を踏みしめる
その先にあなたがいる
その海にあなたがいる
あなたは振り向く
それはただの真白な月影だと私は気づく
あなたという幻は初めから存在しないのだと
幻の消えたあとに満月は完璧な夜を描く
これがほんとうだと
寂しさを嫌って強がるように
私は足をつく
目は濡れた砂色で染まる
このまま海が飲み込んでくれればいいと思う
この夜の一部になりたいと思う
波は指に触れては消えていく
波は攫っていってはくれない
縋るまま月を仰ぐ
凍った月を仰ぐ
月は月としてただ在る
凍てついている
よろめいて月を追う
足を動かして水をかき分けて
沈んでいくことに気づかないふりをして歩く
ふと重力に手放されたようにゆっくりと沈み落ちていく
内から冷えていく外に向かって少しずつ冷えていく
小さく泡を吐く
耳の底で音がする
静かに激しく波が鳴る音
其処は何時でも冷えた夏の夜
また凍った月を仰ぐ
また雲一つない吸い込まれそうな黒
同じ幻を繰り返し続ける
波打ち際で砂を踏みしめる
その先にあなたがいる
その海にあなたがいる
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