いま、気付くこと
秋雨が冷たく降る、寒い夜
自室には、我ひとり
「寒いなぁ……」
ふと零れ落ちた独り言は
答えを待つこともなく消えていく
もし傍らに誰かがいて
「うん。寒いね」
と、返してくれたなら
それはかけがえのない幸福なことであろう
若かりし頃には
幸福とは豪奢(ごうしゃ)で
人々の羨望(せんぼう)を一身に集める
きらびやかなものだと想像していた
だが歳月を経たいま、ふと悟る
幸福とは、日々の隙間にそっと腰掛け
こちらを見守ってくれている
静かで温かい灯りのようなものなのだと
そう気づけるほどに
自分も年を重ねたのだろうかと
自嘲気味に笑う夜の
まぁなんと長いことか
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