親愛書簡
拝啓 へ
腹を満たすだけの食事ならば
記憶で腹を満たしたこの机上でなくとも
カトラリーは微笑んでくれるよ
肉じゃがだっていつもの味さ
でもね でもね
このリビングが良くても
この家が良くても
僕は黙っちゃいないんだよパパママ
ムスコに馴れ初めを聞かれ頬染め背く
ムスコに赤ちゃんの出所聞かれドギマギ
ムスコに互いの影を重ねる
これでいい筈なんだ、フィクションだなんて
僕は黙っちゃいけない気がするんだ
いつのまにか春は次の春に
窓は気まぐれな額縁では亡くなった
あの日3人で蒔いた種が芽吹いたかなんて
もう僕たちの念頭には無かったんだよ!!!
苦しさも悲しさも手を繋ぐと言うのなら
あの家族写真は間違いになっちまう
でも僕は愛の子なんだよ
あゝどうしよう
僕がこの家を出た後
途方もなく大きな蜘蛛が棲みついて
この靄を食って糸にし吐いて
より2人をごちゃ混ぜにしてしまったなら
それでも僕は2人の23個ずつを
唐草模様の風呂敷の奥に突っ込んで歩む
お父さんお母さん大好き。
あっ、宛名を書き忘れてた。まあいいか
だってこの手紙は往復書簡
この家宛だから
敬具
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