依存症
この旅行では、美しい海が私を待っている。…はずだった。
旅行当日の朝日は眩しい。
スマホを見ながら支度を済ませる。
誰もいない早朝の道を私の足音が響く。歩きスマホをしていたからその道は覚えてないが。
乗り込んだ新幹線。
美味しそうだから!ではなく、スマホ片手になんとなく目についた駅弁。
片手にはペットボトルのミルクティー。
めくるめく動く車窓、ではなくていつもの匿名掲示板を見ながら食べる。
窓から富士山。
緑。緑。ときどき町。と後ろの人が喋っていたがスマホで動画を見てたのであまりわからなかった。
そして、とうとう海がのぞいたらしく新幹線がざわめいていた。
のが多少わかった。
海を歩く。
潮の音が直ぐ隣まで聞こえ…ない。イヤホンをしているから。
海はキラキラしている、太陽の光がある、美味しい海鮮丼屋さんもある。
と旅行ブログにはあったからそうなんだろう。あまり覚えていないが。
キラキラいくらの輝く海鮮丼。がお勧めとスマホに書いてあったので注文する。
口に入れる。口の中でいくらが弾ける食感。とろりとした塩気と甘さ。(旅行ブログの受け売り)
目の前に見えるのは雄大な海と富士山。…ではなくスマホ。
静かで穏やかで、時の止まった感覚。
があるらしいけどスマホでSNSを見ていたのであまり感じなかった。
歩き疲れて、いつも通りスマホの地図アプリを見ながら宿へ行く。
今時珍しいくらいの和室。だった気がする。
お菓子とお茶をいただいて(スマホでゲームをしながら)、
夜は暖かい定食が出てくる。
暖かさを存分に受け取って、嘘です、スマホを見ながらただ食べて、
旅の2番の目的になった温泉に入って、(1番の目的はスマホ)
牛乳飲んで、部屋ではスマホでクソどうでもいい情報を見て、
そこで得られたものはまさしく安らぎ。
ではなくて、卑猥な画像と、広告と、匿名で書かれた罵詈雑言。
布団は女将さんが敷いてくれた。横になったが、
スマホを見ていたせいで夜中5時まで眠れなかった。
これから私は、
朝起きたらまずスマホを見て、
通勤中にスマホを見て、
デートの最中にスマホを見て、
花火大会ではスマホに夢中で、
息子の運動会でスマホを見て、
結婚式でスマホを見て、
死の間際にスマホを見ているんだろう。
そういう人生なんだろう。
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