あの夏
伊豆の海を見たあのむかしの夏、
時は止まっていた。
海は静止していた。
白い雲と、空の青さと、
青い山々、蒼い海が調和し合い、
一枚の静止画を作っていた。
「思い出」は、その静止画に閉じ込められ
心の隅にそっとしまわれた。
あの時、イヤフォンから流れていたピアノの音は、海の中に落ちた。
ただ蒼い海と、一粒だけのピアノの音は
「静けさ」という点で一致していた。
「静けさ」は私が人生で最も求めているものの一つなのだと、その時ようやく理解したのだった。
「静けさ」は、悲しかった。
だけど、ひとりぼっちの心に染み込んだ。
心の隅をめくると、私の求めていた絵が見える。
揺れる椰子の木。
広い空。
白い塔。
かすかな風。
17歳の息吹。
海の音楽と自然の調和。
永遠に、時の止まった海時計。
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