焚火をしたことはあるだろうか

真っ暗な外でパチパチと音を立てて燃える火を何も考えず

もしくは悶々と思考を広げながら眺めるというのは

なかなかいいものである

寒い時期はその灯りから離れたくなくなるし

熱い時期はその灼熱に不思議と飲み込まれる


花火をしたことはあるだろうか

舞台は変わらず夜 友人たちとワイワイ

もしくは一人黙々とカラフルな火花を眺めるのは

なかなかいいものである

打ち上げ花火は空間をまるごと轟かせる

静かな線香花火は我々の時間を止める


火遊びをしたことがあるだろうか

そこらで拾ったライターやらチャッカマンやら

もしくは自宅のガスコンロやストーブで

儚く燃えるティッシュペーパー

なかなかいいものである

親に叱られるまでが火遊び

事故にならなくて何よりである


料理をしたことはあるだろうか

食欲をそそるスパイスや肉の焼ける匂い

もしくは焦げた砂糖か 溶けるフライパンの取っ手

料理というのは後片付けさえなければ楽しいのではないか

なかなかいいものである

失敗も経験のうち 三日もすれば笑い話だ

美味しいと言ってもらえればどうしようもなくうれしいのである



全て火を使うものである

人類が初めて手に入れた 他の追随を許さない圧倒的な力

それは文明の象徴であり、文化の礎である

美しくも怪しいその姿に触れた愚者は数知れず

魅かれて 魅かれて 飲み込まれる

遺伝子の底に根付く好奇心が身を文字通り焦がすのだ

緋色が私を包み込み意識が薄れゆく中

それでも私は変わらず

なかなかいいものである

と考えるのだろう






21/03/06 00:46更新 / 1026
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