取り逃した獲物の足を掴むと胃が反転した
午前3時33分、死の匂いがする時刻に床に落ちたぬいぐるみを拾い、
乱雑な机の中をまさぐるように刃物を取り出した。
セロトニンが分泌されるらしいその行為が唯一わたしに対する治療薬であり、もはやラムネ菓子ともいえよう不安時の薬をすべて投げやりと言ったかのようにカフェインで流し込んだ。
ああ、脳は萎縮し、枯れ果てた感性の先に未来のヴィジョンはあるか?そういえば、なんとなく3年、5年と生きていて、私は理想を描き生きてきたか?少し空いた窓からは隙間風が怒鳴り急かすように吹き付けて、私の夜を希死念慮とともに蝕み、責め立てるのであった。
覚束無い千鳥足で1階を目指す。こんなことをしていて何になる?もう1人のわたしは常に私に問掛ける。其の質問の答えも出ぬうちに、わたしはくゆり、巻莨の煙となって部屋の隅にそっと消えていく。乙女の音が止んだ時、すべてあけすけにしていた心臓を改めてノックされ、
amp;#30208;血が鼻から流れ出た。
答えの出ない夜を何度も明かしているうちにカーテンから僅かに漏れる光がこの世の何よりも煩わしかった。また、わたしのところは燦燦たり朝の神秘の光に包まれることがこの世の何よりも苦痛であった。空の胃はさきほどすべてを白に吐いたばかりでなにもなく、空白を埋めるようまた刃を手に取った。
硝子細工のような乙女の終わらない月経痛に薔薇を17本。まさしく絶望的な程に愛は枯れ果てとうの昔に生きていた乙女には人工呼吸をしたとて無駄であった。わたしはつい今しがた見た悪夢を思い出す。せめて王子の顔さえ浮かべば線香の細い煙さえ極楽浄土の道標となってくれよう。だのに、なんだって。
声が枯れるほどに鳴いて、(またその鳴き声は母の乳を求めんとする小さな子猫のようでもあり、)激しく打ち付ける雨は次第に体温を奪ってゆく。それでもなお猫は鳴く事を辞めようとはしなかった。
三半規管が狂い出す、三半規管が止まらない。
両指を耳に詰め込んで応急処置をするとあの光がまた遠くなる。
跳ね上がる横隔膜を慰めるように白いシーツをぎゅうと握り締めた。其の姿がまるで赤子のようだった。幼き日に私の肚であった存在が頭を撫でつけながら流した音楽はまだありありとその色を残していた。わたしはやり場のない其の色を、深夜三時に梢へ塗りたくる事だけを身につけ、今度こそ泣いた。
「亡霊のように くゆって逝く くゆって逝く─」
まじない言葉を唱えては、ベンゼントルエンキシトール、ベンゼントルエンキシロール、首から下げた御守りに、当然貴方は入っていない。
背たけを刻んだあの柱だって、今はもうただの木切れであり、わたしはそれを誠に憂い、またその寂しさに胸を寄せる。
夏に別れを告げる事でまた一歩先へ進めるというのなら、誰だってそうしただろうが、わたしはその夏を進めるため、固まった針の時計を無理に進めている。
[時計屋へ行けども夏は帰らず。]
ぽんと弾いたラムネの音は鼓膜を震わせ、同時に静寂を打ち破った。
劣等感にまみれて生きている。
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