刺ゲ刺ゲ柊(ひいらぎ) 噺
「イテテ イテテ!」
ぼくは叫んで大騒ぎした
「じいちゃんっ。トゲトゲの葉っぱ
に刺さって掌のユビ切っちゃった
よう」
じいちゃんちに遊びにきていたぼくは たくさん植木のうえてある庭で木や草をむしって苛めてて逆襲されたのだ
慣れない出血の修羅場にパニックに陥っている
ぼくの声をきいて昔造園業をやってたじいちゃんがでてきた
「泰二郎や、それは柊の樹じゃ」
ひ ひーらぎ?聞いたことのあるようなないような その名まえにぼくは眼をみはった
「でもこんなあぶない草、危険なだ
けでなんの役にもたたないんじゃ
ないの」
抗議するぼくに ほくほくと藁ってみせるじいちゃん
「そんなことはない。柊はな、むか
しから悪さする鬼を庭ばに入れな
いという言い伝えがあってな、由
緒正しき邸えの北東の方角に植え
られてきたんじゃ。それにのう、
この枝は大工道具のカナヅチの柄
なんかの材料にも使われておって
のう、とっても丈夫なんじゃよ」
ふうん じいちゃんはじぶんでいろんな植物あつめて育ててるだけあって物識りなんだな
「でも手が血だらけでものすごく痛
いよ、この草のほうがよっぽど悪
い鬼だよ」
ぼくがしぶとく抗弁をつづけていると しかたないのうとじいちゃんは翌日植木バサミをもちだし 長い時間つかって庭じゅうの柊の葉っぱのトゲトゲをぜんぶ切り落とし丸るくしてしまった
次のとしの2月にじいちゃんはコロナにかかってしんじゃった
ぼくのわがままを聴いて 言い伝えを蔑がしろにしたばっかりに
柊の逆襲を受けたのかなあ
コロナさわぎが鎮まってかなり経ったいまでも分からずにいて
たまにオハカ詣りをしながらぼくはトゲトゲ草の呪縛に未だに囚われてる感じがしている
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