2024年 ユブネの旅

そのパンフには『生まれた姿で
海上に浮かぶ湯舟に乗って魂の楽園へ』
と書いてあった
女子大1年の私と親友の七咲はそれで
応募し懸賞旅行に当たった と思ったのだ
指定された波止場へ行くと係の女性に
『ここで脱衣をしてください』と言われ
私たちは顔を見合せ『ここでもう?』と
おどろいたが言われたとおりにして
着岸していた船にのるともうその中は
甲板が湯気溢ふれる湯舟そのものだった
『生まれた姿で!』
『生まれた姿で!』
私たちは顔を見合せ号んで乗船入湯した
なんて開放感なの!私たちすごい!
お客が私たち以外いないことに気付く
こともなく(私たち、バカだ!)
ありえない初体験にむちゅぅになって
身をさむかぜのなか温めていると
湯船は予告もなしに大洋へ繰出していた
衣類や荷物を波止場の脱衣所へ置去りに
したまま丸一日食事がでることも
船員の姿をみかけることもなく
湯水につかって暮ごしているうちふたり
とも『いつになったら、どこへ着くん
だろう?』とフアンを拭えなくなった頃
舳くてに黒色のこじまがみえてきた
舟はそくどをまし眼のまえにポカリと
口をあけたどうくつに吸込まれて
行くようだった
どおくつの天井からは牙歯のような
ものが下がっていて私たちが通る時
になってなにか垂れてきた
『何よこれ。なんの臭い?』
それは焼肉のタレみたいに酸っぱい
粘液で私たちのカラダを塗装り やがて
提がった牙たちは上下運動をはじめて
酸っぱだかな私たちを巻込んだ
『生まれた姿で』 初体験のたびは
さいしょでさいごの生涯いちどきりの
冥びだった



24/02/03 05:31更新 / OTOMEDA
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