あまだれ の 瓶




そのこは雨露でぐっしょりだった
どうしたのさそんなに濡れて
ほら傘
か細いくびをふる少女
『いいんです。このままで』
そのままじゃ風邪をひく
ぼくはかのじょを自分のへやにお持ち帰り
ところがかのじょ脱衣したまま与えた夜着を
着ようとしない どうした
『わたしは罪を犯したの。バツを受けるんです』
ばかなことをいうもんじゃない
さあはやく 身嗜みをすこしは調とのえて
『おねがい。わたしの操うばってください』
自暴自棄の人の操うばっても何の価値もない
『いったんこれまでのわたしという瓶を
コナゴナに砕いて卵にまで戻さないとこれ以上
マエに進めないんです。どうかおねがい』
濡れ鼠の瓶
本名をなのろうとしないのでぼくは
かのじょをそう呼ぶほかはなかった
けっきょくぼくはかのじょにあたらしい
価値観を植え付けた
瓶は貴人としてのすべての過去を捨て
ぼくの村でぼくの養女となって
館の牛の乳を搾りチイズを作りながら
村に愛される人生を辿った
むろんぼくにはその甜まつゆに濡れ
癒えぬ傷をさらした浮腫の華の可憐を
涜すゆうきも正統ももちあわせなかった
ぼくはただかのじょを庇護して傍におき
じぶんのこころの弱さを喚び起こし責める
ためだけの スケープゴートマリオネットの
配役を負わせた
そうやってかのじょの過去から めを空らし
ただ齢をとらせるという罪をまた犯した
だから町つのだ
いつか かのじょがぼくの寝所をおとづれて
うなされ寝息をたてるぼくの胸に その指に
殻羅めた うつくしい短剣を立てる夜を
そのよるはアマグモが晴れて月がみえてると
いいな
それらが庭園のパルテールやトピアリー
タピ・ヴェールをてらし 耽美への崇敬を
かのじょの褪せ花琳に投影し泛びあげるといい




23/06/23 04:36更新 / OTOMEDA
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