サラバ古びた引退ストーブ
お別れだスチィブンソン
フルストーブの わが老卿よ
おまえは俺と元家内が一緒になって
序めて所帯をもったその日に買った
肌を斬るように寒い都内でも珍しい
平成一〇年の大雪の日だったよな
今でもよく憶ぼえているよ
なけなしの給与ふたりではたいて
足し合せてようやく購入したおまえ
その後最初の家内はうだつあがらぬ
俺に愛想をつかし独り去っていった
その冬も寒くて俺はおまえのまえで
半纏ひとつに筒まり白息当てながら
はあはあ悴む掌肢摩すり暖めたっけ
次の家内は器量の悪い痩た奴だった
が多少は福運を纏とっていたらしい
夜店での児童本叩き売りが当たって
ようやく収入と呼べるものが増え人
心地ついた生活営めるようになった
そのころからだったか
おまえが調子をくずし火をつけると
がすんがすん音を禿ゲシクあげる
ような今のポンコツになったのは
今度の家内は前の婦つとの思い出が
詰った品に対する当付けもあってか
そんな穢ないものは棄ててしまえと
ヒステリックに主張したが俺は無視
その家内はセラミックヒーター買い
六畳を温ためていたが俺はひとりで
離をぶったてておまえを使い続けた
やがて二番目とも縁が切れ放なれた
三番目の家内は四十近い行き遅れの
バーサンだったがコンピュータアの
ぷろぐらみんぐで財培き気がつくと
舎はオオルオオトメェションハウス
順て三番目もおまえを役に立たない
無用の長物と切って棄て廃却を主張
老いた俺は疲れてこころが闇んでし
まったせいもあり余計意固地となり
おまえに現役のまま豪快な最期を
迎えさせてやりたくなったのさ
まあ そうがすんがすん剥くれるなよ
長い間連れ添ってきた俺達の仲かだ
俺も最期まで付き添ってやるよ
と語りかけ これからキケン覚悟で
おまえに最後の焔をくべてやろう
おまえが傾き崩れ朱い焔がこの離
全体に伝いまわるまでゆっくりと
とっぷりと昔噺に明け暮れような?
なにさびしくないよな 俺たち
時代を跨いでつれそった真の相方だ
おまえはじつは 三人続いた女房より
俺にとって遥かに最高の家内だった
武骨で 錆まみれで カイザー髯まで
林やして妄える古馴染みの老卿よ
ただひとりの 俺のスチィブンソン
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