小鹿時代
小鹿のころ きみははじめて
じぶんをとり囲む世界を知った
顕現してまもなくよちよちと
それでもすぐ地に立った生の逞しさ
黒目がちなつぶらな瞳で母を
わたしを代わる代わるみつめる
無垢なそのたましいにはまだなんの
警戒も畏怖もない
軈て成長したきみは大人ジカとして
いつか広野にたびにでるだろう
だがいまはまだそのときではない
いまはまだ ただ
母の温もりのかたはらで毛繕ろい
栄え揃わないウブゲのさきを
ぺろぺろと嘗めてもらう短じかい
じだいを寝惚けまなこであくびし
ながら 他愛ない戯れにうつつを
ぬかし しばしたのしむがよい
みがるなひびはいつともなく
溘焉と竟わるはずなのだから
時の経過を惜しむかのように
やがて生きいそぐ宿業のきみ
その夭じかい生を知るわたしは
穹をあおぎ こえをころして哭く
嗚咽がだれの耳にも届かぬよう
よるのやみにかおを半分蹲ずめて
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