久雄の屋形船




『わあっ、屋形船がもどってきた!』
しつこくつづいた緊急事態宣言が解除になり屋形船の行き交う光景をふたたび目にして
隅田川の川端プロムナードに久し振りにでた久雄はおもわず声上げた
暮れかけた夕宵の水の都の灯うつす波面のユレ
芭蕉や源内がこよなくあいした江戸の面影が歴史好きの厨二少年のココロをようやく潤した
ながかったよ、ほんとうに永かった
このばしょにもどってくる間にも
おととし一緒に萬年橋のうえで船をながめたジイチャンは
たった五九の歳で夭逝しちゃった
ぜんぶあの憎い『コロナ』のせいだ!
ジイチャンがやってた江戸切子の工廠はもう継ぎ手がいない
もちろん久雄も伝統芸能をつぐキモチ、ない ....なぜって
『ぼくはぜったい自分の船を手に入れて感染者の出ない定期運航を続ける船長になるんだ!』



五〇年後の今、久雄は銀の顎ご髭げ蓄わえる月軌道ステーションとの観光連絡船のチーフコンシェルジュだ




21/04/09 07:23更新 / OTOMEDA
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