乳紅原



しょほぢよは苺紋に紅をぬる

みぎ紋 ひだり紋と丁寧に彩筆を

輪象の血腺のあつまるところに

遅遅と這わせ被おっていく

今宵は彼女が初めて差し出される夜

深川辰巳の岡場所で私生児として

そだった杢太郎は姉同様の背毬が

懸命に馴れぬてつきでじぶんの

宝石らを温ぐい 研がきづつ

粧っているいじらしいさまを横で

痴呆のように長がめている

やがて未熟な梨のような裸の上から

朱けの枇杷柄の羽織を纏とう背毬

そのせつな杢太郎は香の匂いにふれ

白地の沙なかがやく娘の肌表もての

漠原に連れていかれ たち竦くんだ

姉弟の竿燈語りが忽ち身を包み込む

弛らかな丘の錐起のあいだに傾斜の

拡びる 無欲くな谷にに路

さえぎるものはなにひとつない

戦死者の館(ヴァルハラ)

このかくもいとおしい光景をほかの

どの雄床公にも託たしたくないよ

稚いこころにはじめて我執という藍

の闇に燦゛ら澱いた感情が芽映えた



時代錯誤の辰巳を棄てよう



22/02/01 08:01更新 / OTOMEDA
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