慈悲甦みがえる一瞬
くりはまの
千駄ヶ崎のトンネルを通るたび
でぐちさきのかたわらで
ねもとからぱっくり折れて
台座そばに立掛けられている
道祖神がいつも気になっていた
年月による劣化と重みで
折れたのだろうか
それとも心無いちんぴららが
戯れに神仏に仇なす所業に
手を染めた結果なのだろうか
無論容貌ちあるものいずれは
朽ちて吹き消ゆさだめなのだが
ときを声え世代を跨いで
永くおおくのひとのこころの
拠り所を務めてきた信心の
拠り代がこのようなつまらない
時世にそのヤクワリおえて
消滅する事情のくだらなさが
あまりに哀しくやりきれなく
かんじられるのだ
痛ましい姿を目にするたび
いっそお身体を両手で持ち上げて
ダイザ上に戻して差上げたくなる
衝動に駆られているのだが
その結果バランス崩して再び斃れ
今度こそ粉々になってしまわれたら
目も当られないので思止まっている
若しもわたしにパテかなにかで
石の継ぎ目を精密につなぐ
工芸技能があったならば
信仰の徴るしを復すことが
できるだろうにと
そこの深い無念が胸突き上げる
ふだんは慈悲なんて意識だに
しない無信心のじぶんだが
この傷なしげなシーンを契機に
嗚呼まだじぶんにも無常への慈悲を
感じる徳性が宿こっていたのだ と
下り坂で立止り おもい馳せる
酷く希有な時間を得ていたのだった
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