起重機姫0〜回想ノート・女傑伝承の序幕〜
ツインテール揺らすあたしを
田邊という名のその太った社長は
目を細めて睨めまわした
ミニスカートの股の間から
縞柄のパンツが見えているはずだが
あたしは無防備を装って
わざと見せつけるように啓らく
『応援団長?』
田邊は怪訝そうに頸びを傾むける
『チアガールじゃないの?』
『いえ、うちの高校はチア部がなかったんで、あたしが校内の悪玉グループを掃討して編成し直させて応援団を創設したんです』
この戦歴に向うはしこたま畏ののい
た様子だった
『それでなぜうちを志望したと?』
『重機に憧れてるんです!あの硬くてメタリックな質感とでっかい動きにオンナの未来がみえました。そういう理由じゃおかしいですか』
『おかしくない。むしろこれからの女の子にそういう前向きな元気は不可欠だ』そういって社長はデスクの前で向き直り 片手を差し出した
『キミを採用しよう、二階堂浮さん』
思い返すと あれがすべての伝承の
ファンファーレだった
最初は下働きからの出発だった
来る日も来る日もモップ片手に
船の甲板磨がき
暑い夏の間に肌は真っ黒に焼け
嵐の日など丸一日ずぶ濡れになり
その日以来あたしは当付けのように
作業着を上だけ臍そだしの短い
タンクトップ風に繕つらえ直した
この悩殺ものの大胆不敵な外観も
現場の♂たちから姫と呼ばれる
ようになった由縁らしい
一年たって井細田という顎髭の
オッサンから重機操作のいろはを
教わり始めた
あたしは『イサ師匠、イサ師匠』
とよんでくっついてまわり
六畳一間の狭い自宅にも押し掛けた
男やもめの師匠は大酒飲みで
あたしは未成年だったけれど
よく晩酌につきあい 昔別れた女房
への恨み話に根気よくつきあった
肉体関係も覚悟していたが
結局なにも起きなかった
ある日 師匠が死んだ
作業中の事故ではなく急性肺炎
による呼吸困難で担ぎ込まれ
アルコール中毒などの不摂生も
災いしてあたしのなかで最期に
起重機操作士のかみさまになった
照りつける太陽と鼻を擽すぐる
潮お気をふくんだ風に包まれて
あたしは師匠の腕と恨みを
受け継ぎ後輩たちに伝えるべく
今日も正確安全な作業完遂に
猪突猛進する
その姿ってまるで無骨な現場労働
に錯き埃こる艶やかな紅蓮の
ラフレシアかな? えへへ と
作業中に自己陶酔の中で泳いでる
アホなあたしだ 起重機姫
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