さよならだけを置きに来た

忘れられない人がいる

あの日あなたはここにいた
さよならだけを置きに来た

あなたの綴ったさよならは
幼い頃からの揺れる心の物語
それは潮騒のようにさびしくて
美しい詩だった

言葉を追ううちあなたの孤独が
さざ波のように伝わって
私もさびしくなった
涙が出たから泣いたりしたの
あなたも泣いていたのでしょうか

海の見える故郷に帰るあなたに向けて
私も詩を書いた
旅立つ子どもに宛てるように
今日と明日の狭間の夜に

朝が来て静かに雨が降っていた
扉を開けたらあなたはいない
たくさんあったあなたの詩は
全て消されて
ゆうべのさよならのあとに
私の詩だけ残ってた

もうあなたの名前を見つけて
詩を読むことはないのか
サラサラと降りしきる雨音の中
涙が出たからまた泣いた

ここで出逢って言葉を交わし
あなたの作る詩に魅せられたのです
海の見える故郷に帰るあなたを見送ったのは
偶然かしら 運命かしら

あなたは去ってそのわけは知り得ない
私の目からこぼれ落ちる
涙のわけもわからない

今もあなたのことを思い出します
潮騒のようにさびしくて美しい
あの物語を

ここで出逢ってここで別れた
あなたは私の記憶の中で
素敵な詩を綴る人として
ずっとずっと残るのでしょう

海の見える故郷で
あなたが幸せでありますように
安らぎを得られますように
私はここで祈っています

詩を書きながら




21/08/21 00:01更新 / 香弥
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