Respect
やさしさの泉は涸れてしまった
そこにあったことさえわからないほど
村人たちはいきなり水が無くなったと驚いている
長い時間をかけて少しづつ無くなっていったのに
ただ気づかなかっただけ
いつでも飲める 飲んで当然
そんな気持ちだったのか
泉は村人に飲ませるためなんとか水を涸らさないよう
つとめていた
それが自分の使命と感じていたから
水は村人の命の糧と思っていたのだ
自分がいなければと
しかし泉は見てしまった
村人の中にごみや不要な物を捨てる者がいるのを
自分たちが飲む水なのに
泉は怒り悲しみ水はまた少しづつ減っていった
しかし泉には大切なものがあった
自分の周りで控えめに咲く小さな花たちだ
彼女たちを見ているだけで心が癒やされた
みんなで一緒にここを守ろう
村人たちもこの泉の大切さ 水を飲めるありがたさに
気づいてくれるだろう
そう望みをかけていた
しかしあの日 あの村人たちが来た日
泉は思い知った 自分は取るに足らない存在だったと
村人たちは服のまま泉に飛び込み酒を飲んで
空になった瓶を何本も沈めた
今までのごみも溜まったままなのに
そして水から上がるとほとりに咲いていた花たちを
ことごとく踏みしだいて帰って行った
自分の水で潤いかわいいやさしい花びらを
控えめに開いていた花たちを村人たちは
踏んでしまったのだ そこにあることさえ気づかずに
水を汚されたことも悲しかった もっと悲しかったのは
懸命に咲く小さな命に目もくれない村人の心
花たちは叫んでいた
踏まないで 私たちはここにいるよ
咲いていたいの
その声が泉を涸らしてしまった
もう一滴の水も出ないほど
それに気づいた村人たちは慌て口ぐちに言った
なぜ泉が涸れたんだ 雨が降らないから?
水を汲めなかったらどうする まったく役に
立たないじゃないか
泉はもう何も感じなかった それはとうに過ぎてしまった
自分は何をして来たのか
ただ村人の感謝を求めただけの日々だったようにも思う
今はただここには誰も来てほしくない
それだけだ
干上がった泉の底に村人たちの捨てたごみが
そこかしこに埋まっていた
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