故郷

遠い遠い故郷からの知らせ
最後に残った幼なじみが逝った

揖斐の山を川を眺めたのは
思い出せないほど昔のこと
まだ兄弟もいた

子どもと言っていいくらいの歳だったなぁ
仲間と汽車に乗って都会に出たのは
もう70年以上もたつだろうか

戦争中は学校に行かず軍需工場で
働いていた 日本で一番大きな工場だった
戦争が終わって仕事を探しに故郷を出たけど
仲間は一人また一人 寂しさに負けて
帰って行った

なぜ残ったって?
帰れば辛抱が足りないと言われてしまう
自分にそう言いきかせた

何年か働いて社員にしてやると言われた
あれがなきゃ路頭に迷ってたなぁ
何度か父親が会いに来たよ
新幹線もなかった頃だ
心配だったんだろうな
面倒見のいい人だった

妹が時々葉書きをくれるけど体を
こわしているらしい
俺もさすがに今年はきつい

従弟が教えてくれたよ
もうお前だけだと
10人いた同級生はもう誰もいない

俺だけ残った
とうとう俺一人だけ

20/08/16 20:54更新 / 香弥
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