姫藤伝説

里に伝わる古い話

昔 お山の向こうで激しい戦が
あったとな

領主が討たれ一族の者はちりぢりに
逃れたそうな

領主の姫君も従者と共にお山の奥に
隠れたが追手に囲まれ哀れ自らお命を
断ってしまわれた

そののち姫君が儚くなられたその場所には
一本の藤が生えたという

藤はお山の奥深くお社の近くにひっそりと
蔓を伸ばしているそうな

お社は道があまりに荒れ果て定かでないが
時おり信仰心篤き者がお山を懸命に登り
お参りするという

さすればいずこからやら耳に
か細き声が聞こえてくるとか

争うなかれ
のちのちまでも伝えたもう
人の命ぞ花のごとし
大事にしてこそ咲くものぞ

声をたどって近づくとそこには
たいそう美しい藤が一面咲き乱れ

ほんに雅な衣を召した姫御前が
袖を広げたような風情じゃと

そうしてお山の藤はいつしか
姫藤と呼ばれるようになったとな

争うなかれ
姫御前の切なる願いが咲かせし花なり




21/01/29 12:39更新 / 香弥
作者メッセージを読む
いいね!感想

TOP


まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35c