ゆめなかの線香花火
つくつくぼうしの鳴き声が
雑木林に響いて
遠い潮騒の泡立ちを
庭先に運んでは引いていく
風は少し立っているが
まだ日差しはきつい
夏の長い日の照り返しを
早く消したくて
打ち水し
水溜まりまだ光る緑色
畳にねころぶ
ただぼんやりとしたい夕刻
熱気が蒸発してゆく昼夜の境に漂う
ほんのりとい草の香りが何処かへいざなう
魔法の畳とやらに乗って
懐かしいあの幼いころの夏へ
あの縁側あの庭
うとうとと夢うつつ
パチパチ燃える
ぼんやり光る
煙る 煙る
瞼に映って儚く光るもの
あれはなんだろか
すっかり涼しい夜のあの庭で
宵を待ち 咲く紅色
小さな玉虫の瞬き 糸ひかる花
送り火かわりの線香花火
ああいいな いい灯り いい香り
じりじわと線香花火に
紅く火がともれば
じりじわと瞼の奥が熱くなる
もう身体を起こさないといけないけれど
まだまだゆめの狭間で
揺れていたい
瞼の水溜まりにチリチカ光る
遠き夏夜のともしびよ
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