テーブル
同じテーブルに座って食事ができるひとは
人生の中で何人といるだろう
和やかに心ほどかれて
信じられるくちづけの守り方を知っている
あのひとの口元や食べ方が好きだな
高らかに歌う孤高のラッパは
なにか違って
張り詰めた糸を這うような弦楽器
海の底から見上げて吐くアブクは弾ける音符
そのひと粒ひと粒に思い出がつまっているから
秋の夜長には懐かしいつぶやかなお喋りの雨音が糸雫となり耳を伝う
お気に入りの図書館のテーブルから見えるガラス窓のフィルターを透してゆくと
秋の風に木洩れ日の光たちが蝶々のように舞う
落ち葉や草、苔の上を瞬きながらもそこに在るひとときがあるがまま映し出される
伸びた草の指先が体温を持って
パーソナルなスマホを開く、
どこでもドアになる魔法の鍵は
そうそうないのかもしれないけれど
その全てが歌だと感じられたとき
テーブルはなくなり、
壁や天井もなくなった
どこからか鳶の鳴き声が青い宙の中を舞う
ふとあのひとの口笛
素知らぬ顔をして吹く口元が浮かんだ
あの愛らしい音色が
秋風に紛れて身体中を駆け巡ってゆく
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