細やかな朝の記憶
早朝この日は薄くらい曇り
街のビルや電柱の肌はいつもの
活力を消し去り新たな表情で
こちらを見つめている
悲しそうでもなく
シンとして心に迫ってくる
少しの笑みもこぼれている
ほらほら空を見てみたら
雲と雲の小さな隙間から
吸い込まれるほど白く
クリーム色に銀が混じった様な
いとおしいほどの優しい輝きが
ビルや電柱そして
私の肌も照らしている
本当の孤独なんて
ないのかも知らないけれど
本当に自分だけになった部屋で
迎えた朝は
こんな細やかな朝だった
手を振った 深夜
旅立ちのバスターミナル
沢山の荷物を抱えた人達が
様々な想いも抱えて交差していく
高速に入り夜行バスから見る
街明かりの景色
あなたの部屋の灯りは
見えるだろうか
切り絵の様な沢山のビルの
四角く均等な明りの中に
霞んで行く
電車に飛び乗って
行こうかと何度も思った
それでも自分だけのあの部屋に
帰っていくのだ
これから自分と世界との
バランスを崩す度に
大きな世界に自分を溶かして
小さな自分を心細やかに
見つめていきたい
夜が明けて帰ってきた
自分だけの部屋は
冬だまりがまだ隅の方に
転がっている
バルコニーに出て
電柱のカラスと
散歩をしている犬と目が合う
自然と笑みがこぼれる
いつか見た
あの映画のワンシーン
少年が小鹿に会えた朝のように
何か得体の知れない
細やかな気持ち
こぼさず少しでも多く
覚えていたい
あなたと通じ合えたと思えた
朝もそう
きっとそんな記憶が
本当の孤独なんてないと
少しでも思わせてくれる
朝食はドーナツ屋さんに
一人で行こ
あなたを思って食べる
ドーナツとカフェオレは
格別に甘くて美味しいだろうから
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