言の葉の川
少し乾いた北風が吹く日に髪を切ることにした
いつもの行きつけ
しっかり者のあの子にお願いをして
彼女の店まで
カラカラと落ち葉が吹かれる音を聞きながら
ススキが揺れる小道を歩く
エントランスには柿がオレンジに色ずいて迎えてくれた
シャンプーの泡のようにあの子とのおしゃべりも膨らんで
暖かいシャワーのように流れていく本当に心地よい時間だった
大分伸びたねと鏡の前に座ってお互いの近況を
パツパツパチンという音と交えながら何を話したかも
忘れていってもよい軽快さを楽しんだ
ふと足元を見ると髪が沢山落ちていて黒い渦のように見えた
彼女に後ろから指先で頭をコクッと持ち上げられて
短くなった髪の自分と目が合って少し照れた
さっぱりとした髪に清々しい風を受けながら
少し遠回りをして帰ることにした
何を話したか忘れそうな中ではっきりと
心に残った話があった
しっかり者でリアリストな彼女がまじめに
話すから余計だった
人生を全うした後の話
人は三途の川を本当に渡るらしいと云う
その川の向こうにはどんな人でも
誰か一人迎えに来てくれているらしいと
真面目な顔をして云うのだ
「誰か…」
「心から会いたいと願った人だったらいいね」
彼女と二人深く頷いたのだ
床に落ちた髪はキレイに掃かれていた
いつかこの髪が白くなってうとうとと縁側で
瞼を閉じる時に見る夢が描けるならと
私は大樹の下で夢想をする
若く甘美な夢は泡のように儚い光、闇の奥へ
奥へ魂の終演へ近づいたその時
わたしの悲しみさえも愛してくれた
魂の巡礼者の詩句が私を美しい夢ヘと導き
闇の中に光が灯る
金色の夕日と落ち葉の舞う中の
微笑み ほほ笑み 白髪は銀色の風となり
川の流れにのった流星群となる 私は手を伸ばす
やさしくなびくその手に
とうとうと流れる川に
愛する者の傍らに落ちて
私の言葉、全て、その孤独は完全に解けていった
見上げた夢想の空は大樹を中心に砂の雲とともにゆっくりと回り
変化する砂雲が目に沁みても木漏れ日に歌う鳥のように
喜びたいとそう思った
そこが天国じゃなくてもいい
未知なる夢ヘの道は開かれた
川の流れにのってたどり着く言の葉と共に
その微笑みの道化師、巡礼者と私はなりたい
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