いちりんの夢唄
かえす波に光る砂浜までも
薄紫にこくこくと
そまり揺れうごく海面
東の空が美しく染まる
紫の雲間から かすかな
白い月が浮き上がって
はかなげなあなたの笑顔をうかべる
今日釣れた魚を焼いて向かいあわせて箸をとる夕暮れ
うつくしい味わいが体に巡り
心がほどけ
梅の酒が魂まで滲ませる
食後の皿を
ゆっくりと重ねて水に浸して
鈴虫の声を聞きながら流し洗う
布巾を硬く絞り食卓台を滑らし
一台一鏡の生活を磨いて
いっぱいの番茶をとんとおく
日々の終わりが慎ましく
微かな夜風に茶が薫る
そんなささやかな夢までもが
幻のようにみる夜の帳は
いちりんの風ふきゆく
いちりんと風鈴の音がひびいて
鈴虫たちと枝葉のそよぐ音が流れ
月のよな横顔はくも霞
祭り囃子が川辺に流れ微かになる
送り火の線香花火の煙りが
夜空に消えていく
ひと夏の夢の唄が
雨の匂いをふくんで
いちりんと吹かれていく
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