おじいさまの背中
おじいさまの大切な錦鯉
ゆらゆら小池の中で泳いでいる
おじいさまは足が悪いから
お部屋の窓から
大切なこいを眺めます
小池の中をゆらゆらと
あか、しろ、くろ、きいろ
口をパクパクしながら泳いで
落っこちたら吸い込まれると
おどかされたからこわいのなんの
七五三の着物も錦の模様よ
爛漫の、菊が咲いて
嬉しくてお池のまわりをかけてみた
錦鯉はそしらぬ顔で悠々と
桜黄金光らせて
私の着物をからかった
おじいさまの大切な盆栽
四本の指で
チョッキンチョッキンと
その背中
いつも声を掛ける隙はなく
お舟で手を怪我した話は
おじいさまは言わないし
一度も聞けなかった
近づくのはやめて
要らぬ口を
チョッキンチョッキン
とあとずさり
振り袖揺らせて
こいのようにくるりと去った
思い出の
光り模様に揺れる花
水の音楽さらさらと
桜黄金流れる季節
きっときっとその時は
振り返えってね
おじいさま
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