糾弾
気がつけば
聞こえてくる心の声
繰り返される
罪を糾弾する言葉
―この人殺し
―お前が殺した
私はそれらに対し
反論することもなく
静かな心で受け止めている
その押し寄せる言葉の波が
かつて私が犯した罪への刑罰ならば
黙って受け入れよう
むしろ
その刑罰では刑が軽いくらいだ
あれは私がまだ高校3年生のときの冬
親戚達が集まって新年会を開いた後のこと
ちゃぶ台の上に並んだ
おせち料理などのごちそう
それが私に
ある思いを抱かせた
重度認知症の祖父は
目を離すと何でも口に入れてしまう
喉を詰まらせるたび
私や家族は
口に指を入れて食べ物を掻き出していた
新年会の片付けが終わり
私は2階へ登った
ちゃぶ台の上に乗ったごちそう
祖父は頻回にトイレへ行く
その途中でそれを見れば
きっと際限なく口にほう張るだろう
私は食事をちゃぶ台の上に置いたまま
食べ物を見せないように引き戸を閉めることなく
2階に登ったのだ
そして
さりげなく願ってしまった
―これで終わりになればいいのにと
父の叫ぶ声が聞こえた
祖父の名前を呼んでいる
下に降りてみると
私の思ったとおりの事態に
両親が蘇生術を施しても
虫の息さえしていなかったと思う
私はできる限りの手伝いをしながら
こう願ってしまった
―このまま逝って
家族ならば生きてほしいと
願うのは当然かもしれない
けれど
私はその当たり前のことが
望めなかった
共働きの両親のもと
祖母は祖父を介護していた
祖母は祖父に対し
散々言葉で
しまいには手を上げて
いじめていた
私は祖母の負担が軽くなるよう
できる限り介護を手伝った
そうすれば少しはやめてくれると願いを込めて
けれど
十分にはやりきれなかったせいか
いじめも祖父の老化も
何も止められなかった
家にいるのが嫌で
居心地が悪い
祖父は時折
涙をためてじっと耐えている
怒っている祖母も苦しいだろう
こんな生活
終わってしまえばいい
そんな単純な思いで
抱いてしまった殺意が
招いた結果
病院に搬送されて
訃報を聞いた後に
お風呂場で静かに涙を流した
その涙は
祖父が亡くなったから流したのではない
自分の良心の欠落に驚愕し
自身のしでかした
取り返しのない罪に怖じ気づいたから
流れたのだ
それまで私は
当たり前のように
自分が善い人間だと思っていた
しかしこの日以来
自分の人間性を信じられなくなった
今でも私は
自分を善い人間と思っていないし
そう信じて生きてはいられない
おそらく祖父は
気に病んでほしくないと思っているだろう
だが
私の中で何者かが
私の罪を糾弾してくる
それは
私の良心の呵責なのだろうか?
罪の意識なのだろうか?
いずれにせよ
一生涯その十字架を背負って
私は生きていかなければならない
自分の罪としっかり向き合い
生きて償おうとしなければ
私の心に救いはない
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