祖母が亡くなっても私の心は波風が立たない

祖母が
亡くなった

家族も親戚も
動揺した

死を嘆き悲しみ

「婆ちゃんは
面倒見が良くて
慕われていたよね」と

思い出の中の祖母を
懐かしんだ

だけど
一人だけ

心に
波風が立たず

心が平板な状態の
人がいる

それが


みんな祖母を
良い人だったと
賛美する

でも
私の記憶の中の祖母は
その逆だ

祖母は確かに
面倒見が良く

近所の子ども達の子守をしたり
PTAや婦人会の重役を引き受けたり
していたそうだ

しかし
周りの人から尊敬され
頼られた意欲が強く

誰かの世話をして
敬われなければ満たされない

そういう
不安定な人だったからか

満たされない欲求に加え
重度認知症の祖父の
介護ストレスが加わり

私が幼少の頃から
日常的に祖父に罵声を浴びせていた

何となくこの人は
良い人ではないと感じていた
小さい頃の私

祖父が亡くなってから
あたる相手を失った祖母は
徐々に弱っていき

私が祖母を
介護するようになった

正直
私は祖母が苦手だった

祖母の弱さや醜さを
身近で見て育ったからだろうか

家族と思って相手をすれば
怒りが出てくるだろうから

他人と思って
相対するようにした

それで平静を保ち
淡々と介護した

不思議なもので
他人と思えば自然と
思いやりも持てる

余計な
怒りや嫌悪が鎮まる

表面的に見れば
おばあちゃん思いの孫なのだろうけれど

誰も知らないだろうね
その孫が
一番その祖母を嫌っていたなんて

どんな思いで
面倒を見ていたかなんて
その葛藤に
誰が気付いていたか

本当は
全て放り投げて
無関心でいれば
楽だったんだろうね

でも
他人として見ていても
他人として想いを込めて
接していたのは

祖父を虐めていた祖母と
同じ事をしたくなかったからだ


祖母が苦手であることを
打ち明けたことがあったが

全く理解してくれず
受け入れてもらえなかった

それだけ
自分は愛され
尊敬されていなければならないという
思い込みが激しかったのだ

介護が辛くて
何度も
「死んじまえクソババア!」と
陰で叫んだ

そうやって気持ちを吐き出して
また
介護を続ける

そういう日々を
5,6年続けて

常時介護が必要な状態にまでなって
「もう面倒が見きれない
施設に入れて」と
父に訴えるも

表面的に
祖母を良い人と慕っている父は
「可哀想だから」と
家で看ることを譲らず

介護の中心を担うのは
孫の私であり
その私が現実的に家族で介護をするのは
無理があると言っていても
断固拒否する父

仕事と家事と介護と
両立しながらの生活はカツカツで

祖母を嫌う私が
介護の中心を
身を削ってまで担い

祖母を慕う父は
知らんぷりはしなくても
結局は仕事を優先

私に感謝しつつも
どこかで私に甘えていたと思う

また
祖母の状態への認識も
甘かったと思う

母や兄は
自分のことしか頭にない

介護が辛くて
一人で泣いた日もあった

クソババア!と
愚痴をこぼしながら
祖母と向き合った

職場の人から
地域包括支援センターに相談するよう
促されて

相談したら
やはり
「施設に入れた方が良い」と言われ

その内容を
父に何度も訴えて
ようやく承諾

施設に入れて
私はようやく
解放された

介護から解放された
というより
祖母から解放された

ようやく
無関心でいられる

もう
祖母を忘れて
生活出来る

本当に
喜びしかなかった

そして今日
祖母が亡くなって

みんな動揺しているのに

私だけ
心に波風が立たない

悲しみもなければ
怒りもない

過去を思い出して
怒りが湧くことはある

でも
亡くなったことに対して
本当に
心が動かないのだ

それだけ
私は
祖母を愛していなかった

祖父が亡くなったときのような
衝撃がない

まるで
ニュースで誰かが死んだ話を
聞いたときのような反応

祖母を愛することを
放棄しなければ
私が壊れてしまう

だから
放棄しようと心に決め

本当に
愛することを
放棄してしまっていた

その事実に
私はただ
愕然としている

もっとこうしてあげれば
とか

死んでくれて良かった
とか

嘆きや恨み言が
出てこない

でも
良いよね

私は
よくやった

よく
尽くした

送り出すときも
淡々といこう

家族として
ではなく
他人として
想いを向けて
送り出せば良い

他の人達のように
愛を送れなくて良い

それを
負い目に感じなくて良い

それにしても
本当に不思議

祖母は本当に
外面が良かったのか
みんなから慕われている

その人達は
祖母の弱い部分を知らないから
良い人と慕っていられるのだ

私は
祖母の弱い部分や
醜い部分を
しっかりと見てきた
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