花を摘んではいけない
ただ
そばであなたを見ていたくて
ずっと触れていたくて
あなたという花を摘んでしまった
あなたという花が
とても可愛らしくて
つい独占したくなった
あなたが道行く人々に向ける
眼差しも微笑みも
自分だけのものにしたくなった
自分のものにして
確かに自分にだけ
その愛くるしい笑顔が向けられた
あなたは文句も言わずに
ひたすら自分に尽くしてくれた
それでいいと思った
それがいけなかったのだ
そんな自分の下らない私情のために
あなたという花は
次第に生気を失っていき
眼差しも暗くなり
微笑みもなくなり
気がつけば花は枯れていた
初めは枯れたことに動揺し
同時にあなたの献身さが
偽りだったかのように感じて
怒りがこみ上げた
その勢いで
あなたという花をどこともしれない道に
捨ててしまった
捨てた後
あなたを摘んだあの場所を通って
気がついた
あなたという花は
その場所に咲くからこそ
生き生きと
あなたらしく
咲いていたのだと
あなたをあなたらしく咲かせていた
その土地から
あなたという花を摘んではいけなかった
その行為によって
あなたの命は絶たれてしまったのだ
その罪悪の挙げ句
どこともしれない道に捨てるなんて
何て自分は
どこまでも愚かなのか
あなたという花を捨てた場所に戻り
探したけれど
見つからない
せめて
あなたを見つけた
あの場所に
帰してあげるべきだったのに
この後悔と罪の意識は
永久に消えない
その日以来
道ばたの花を摘むことはなくなった
そして思う
花はその土地に咲くからこそ
美しいのだから
花を摘んではいけない
TOP